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中国は、選挙直前の朱鎔基首相の発言にもありましたように、民進党の陳水扁氏の当選を非常に嫌い、また警戒するといった態度を露骨に示していました。ところが、選挙の結果をみますと、まさにそれが現実のものとなったわけであります。中国が掲げているものとは相反するようなイデオロギーをもった政党の候補者、それが陳水扁氏であったわけで、その彼が当選したわけであります。

一方、台湾社会のほうに目を向けますと、台湾社会には4つのエスニック・グループが存在しており、例えば本省人対外省人などといったエスニックな亀裂というものが存在しています。このような社会において、しかも外からは中国の脅威というものが明確に存在しているなかで、「台湾の子」を標榜する人物が政権をとったということは、やはり内部的にもショックが存任したわけです。

また、国家内部におきましても、特に軍や情報機関の人々にとっては、民進党あるいは陳水扁氏はある時期までは内部にいる敵といった見方をしていた対象でありましたから、その人たちが自分たちの上に立つということで、そういう意味でもまたショックがあったものと思われます。

そうしますと、新政権としましては、まず政権をとって何か新たな政策を打ち出すという前に、こういったショックをできるだけ小さなものとして抑える、最小限に抑える必要があったわけであります。そこで、特に内政面で行われた試みの1つが、「全民政府」を組織することでありました。この「全民政府」とは、陳水扁氏が選挙の際に掲げたスローガンで、党派の枠を超えた政権運営を行うという政権構想でありました。そして、その「全民政府」の目玉といえるものが、首相に相当する行政院長のポストに国民党員であり、しかも海軍総司令を務めた経験をもつ軍人出身の唐飛氏を指名したことでありました。台湾では、この陳総統と唐行政院長のペアによる新体制を「陳唐体制」と呼んでおります。

また、この全民政府では、閣僚にも多くの国民党員が登用されました。さらに、総統就任直前には、陳氏自身が民進党の活動から離脱することを表明しまして、彼自身が超党派による政権構想をより明確に示したといえるわけであります。

さて、「全民政府」とは、陳総統の政権構想の1つであったわけですが、実は民進党にとりましても、やはりそうせざるを得なかったという側面がありました。と申しますのは、民進党は今回初めて政権を奪取したわけで、党自体が経験をもたない、それゆえに民進党もやはり人材不足という面が否めないということがあったわけです。

 

 

 

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