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しかし現実にはそれしかないんです。天才だったのでしょうね、あの人は。もちろん彼はそういうことだけでなく、同じ文字の中でもいろんなことをし、俳句もつくったわけですが。

これは、いわば資本主義社会に生きている人間の本能に近いものです。ところが、それはそうなんですが、じゃあどこで儲かっているということが、表現できないことというのはたくさんあるんですよね。当たり前なんだけど全部が決算数字に出てくるわけじゃないし、決算数字でもセグメントされた情報というのはアナリストと会社とが昨日も今日もやりあっていますけど、どの部門で儲かっているのか。もちろん、それは超過利潤が発生しているというのは会社だけの問題じゃありませんから、部門でも発生しているということだって大変な関心事だ。同業者はそうですよね。

ところが、現実にお前はそこだけはおもしろおかしく言うけど、わからないことがいっぱいあるじゃないかと。でも、わかるとまたジャーナリズムは消えると思うんですよ。ジャーナリズムの特徴として。政治やスポーツと違うから。わからないところに、やはりお金を払ってでも少しでも近づこうと皆さまが思ってくれるから生きていくわけですが。

今言ったようなことというのは、僕らは経済記者的なものを20年間やっていましたが、バブルのプラザ合意以降でしょうかね。それ以前というのは、もちろんそういう記事は、松下がこれだけ儲けたとかいうことはあるんですが、規制に名を借りて超過利潤がどこに発生しているのかという、そういうふうに表現しなければやっていけないような、今現実の取材状況というのはあったと思います。

儲けんとして業界と摩擦を起こす。新商品が何か非常に売れてしまって足りなくなってしまったとか。それからルール違反的な報道をすることによって、法律違反ではないにしても、通産省が文句を言ったというような話の記事は枚挙にいとまがないほど、あの高度成長期にあるはずです。そこは非常に不思議だと思いますね。そこがやっぱり新聞の問題じゃなくて、日本社会のこっちは問題だと思うんですが、いろんな規制の中で、いろんなルールの中で、儲けすぎというものに対してはチェックが入る。

もともと決算期があって、ちゃんとしたセグメント情報がなければ、どんなに儲かっているかなんてことはわからないわけですから、何とかそれを表現したい。その中で一番便利なのは、妙なトラブルですね。これを表現することが多かったんですよ。そのことが、現実の規制社会をつくってきたということはあるにしても、今日の論点ではありませんから、歴史の中では、そういうこともあるでしょうということでとどめます。

 

 

 

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