この本では、朝鮮半島の3つの危機をめぐって書いてみました。米国と北朝鮮の間の核疑惑をめぐる対立、北朝鮮の飢餓、それから韓国における金融危機です。これら3つの危機を分析しまして、朝鮮半島の将来を3つのシナリオに沿って考えてみました。これは決して完全に包括的なものでもありませんし、また、二者択一、三者択一的なものでもありません。しかし、知的な作業として、私のこれらの問題に関する考えを明確にする有益な作業であったと思います。
まず1つの考え方は、自発的に、成功裏に、抜本的な改革が北朝鮮で進むという考えです。本の第7章のところでは、そのためにはどういったことが考えられるのか。定質的に、また定量的に正式な経済モデルを使いまして、どういったことが必要なのか考えてみました。
もし、この経済改革が成功するというのが、1つの極端なケースだとすると、その対局となる極端なケースが、北朝鮮が瓦解するというケースでありまして、これは第8章で考察しています。ここでも、定質的に、また、さらに正式なエコノミックモデルをもとに北朝鮮が破綻した場合、北にとって、南にとって定量的にどういった意味合いを持つのか、それも分析してみました。
そういった、極端なケースを明快にしまして、そして、第9章のところで第三のシナリオを述べております。つまり、最も考えられるシナリオ、あるいは少なくとも、当面考えられるシナリオということです。つまり、模索を続けながら進んでいくということで、北朝鮮が一連の場当たり的な調整をやっていく、そして、その間、国際社会に支えられる。北朝鮮が崩壊するのは皆見たくないわけです。ですから、抜本的な改革、変貌ではないし、また瓦解でもない。そうではなくて、場当たり的によろめきながら、世界の国々は物質的な支援を与えて、北朝鮮が瓦解することがないように何とか支えながらやっていくという方法です。
最近、北朝鮮をめぐって一連の外交活動が見られています。これは、この道のりの第一歩と言えるかもしれません。そこできょうの話は、3つの問いかけを基に組み立てていきたいと思います。
第1問、最近の外交活動は、抜本的に、北朝鮮の政策の方向転換を意味しているのかということです。あるいは、単純に、戦術的な小手先の動きにすぎないのかということですが、この問いかけに対する答えが、イエス、すなわち、抜本的な政策の方向転換を意味するのであれば、次の問いかけは、では北朝鮮政権がこの経済改革、経済近代化のプロセスを成功裏に手綱を引いていく可能性はどのくらいあるのか、能力はあるのかということになります。