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結局、近くにある200万都市を水没しそうになりました。しかしこのダムが間に合ったので、650万都市が水没せずに済んだと、よく省政府の職員から聞かされました。しかし残念なのは、このダムが日本の円借款で造られたということを知っている中国人はとても少ないのです。なぜなら、これは円借款で造られいます。パンフレットには確かに円借款で造られたと書いてありますが、実際に造ったのは中国側です。ですから、非常に大きな効果を上げて、現地に役に立ったにもかかわらず、日本の援助であることが地元の人に伝わらない。そんな経済インフラ支援が、中国にはかなりあるようです。

もちろん、これは国際協力事業ですから、相手に役に立つものをつくればいいわけです。しかし、ODAの目的は2つあります。第一は相手側に役に立つこと。しかし第二にそれが日本の援助だと知ってもらうこと、つまり広報効果が必要です。特に中国のように過去に侵略した国家では、それが日本の国際協力でつくられたものであるとわかってもらうことは、とても大切なことだと思います。ただ、従来のODAではなかなか広報効果が上がらなかった。そこで、今回の中期計画では、「顔のみえる援助」、「人間中心の開発」というスローガンが出てきます。具体的には、直接相手側の住民に届くもの、直接相手側の人間に対する支援事業を指します。それこそまさに地方自治体がやっている国際協力ではないでしょうか。確かに日本のNGOの方も中国では頑張っています。ただ、総量から言えば、地方自治体の方が多くの事業を実施している。さらに、地方自治体が相手側に移転しているものは、公共財ということが可能な、住民サービス、環境保全に関係するものの設立のノウハウや人材の研修であり、相手側住民に直接働きかけられるものが中心です。日本はこういう地方自治体の国際協力に注目すべきではないかと私は強く思います。

さらに地方自治体の国際協力には、以上の公共財運用ノウハウの国際移転以外に、もう1つの特徴があります。それは、国交のない国と交流をするということです。当然国家には「国家益」があり、例えば北朝鮮で人質がいる以上はそう簡単には国交は開けない。でも、では北朝鮮との交渉はアメリカに任せておけばいいのか、これもあまりにも愚策です。外交政策を国家として行う以上は、2枚目、3枚目、4枚目のカードが必要になると思います。その中で、特に地方自治体が行っている国交のない国との交流は、とても大切な外交カードではないかと思います。

 

 

 

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