例えば、島根とか鳥取、兵庫が中心となって、北東アジア自治体連合を作りました。これは、ロシア、中国、韓国、日本の地方自治体の知事クラスが集まる会議です。常設事務局をつくり、会として求心力を持つために共同事業も始めています。共同事業の第1回目が北東アジア交流の船でした。これまで各県ごとに出していた青年の船の国際版です。日本から出航して、韓国、中国、最後にロシアに寄港して、また日本に戻ってくる。日本海がいかに小さい湖のような海であるか、皆で実感しようという企画の船でした。
さらに、95年には、北九州市と大連市が環境協力で非常に注目すべき計画をつくります。「大連市環境モデル地区整備事業」といいます。これは、中国の宋健という中央政治局員が北九州に来たときに、北九州国際技術協力協会(KITA)のトップの方が、「おたくは経済特区ばかりではなくて、環境特区をつくった方がいいのではないか。これから環境は大変な問題になる。北九州の歴史を見ていただけばすぐわかるでしょう」と話したそうです。そして、宋健が非常に関心を持ち、具体的に計画をつくりませんかということで始まったと聞いています。この事業が注目すべき点は、初めに北九州市と大連市の間に具体的な計画づくりが進み、その後計画に沿って中国の環境局が国家政策として、環境モデル地区を策定します。そして中国側からODA案件としての要請が日本政府に出されます。つまり、日本の一地方自治体がつくった政策が相手側の国家政策になり、さらに国家レベルでの国際協力事業に発展していきました。
地方自治体の国際協力について、1つだけ大切な特徴を挙げると、北九州市の例が端的に表わしているように、日本の地方自治体が主管している公共財、そしてその計画と運営するノウハウを国際的に移転し始めている。この点を挙げることができます。政府が昨年発表しました政府開発援助に関する中期政策(ODA政策)の中で強調されているポイントとして、「顔のみえる援助」、「人間中心の開発」という単語が出てきます。これまで日本のODAは経済ハードインフラに集中していた。経済ハードインフラは確かに効果的ですが、なかなか日本の援助だとわかってもらえません。この種の援助を、地方自治体による環境保全や都市計画などを中心としたものに代替していくことで、大きく変化させていくことができます。
具体例を挙げますと、中国の遼寧省にODAの円借款で、観音閣ダムが造られています。実はこのダムは、5年前の大洪水の際、非常に大きな効果を発揮しました。瀋陽市という650万都市、大阪市の2倍ぐらいでしょうか、その町が水没するかしないかということで大変な状況になりました。