従来日本は、非軍事的役割を中心にやっていくべきだという主張はありましたけれども、必ずしもそれは国際的に説得力を持っていない。他国からは、身勝手な主張だ、きれい事ばかり言って、汚いことはよその国に押し付けるのかという言い方をされている。しかしながら、日本には「普通の大国」になって汚いこともきれいなことも普通に引き受けるという道もあるけれど、自分の国のこと、周辺諸国のことを考えるとそうしないことが賢明だと日本としては判断する。日本はそう思うし、周辺諸国もそれをアプリシエートする。そういうことになれば、普通でない大国としての日本には、普通でない大国としての貢献の道が当然認められることになっていくのではないか。そういう気がしているわけであります。
もう一回言いますと、日本には軍事面を含めた自立の選択肢もある。これは、そうすべきだと言っているのではありませんから、繰り返し注意申し上げます。私は、そうすることは大変に愚かしいことだと、自分では結論付けています。しかし、そういう選択肢もあるんだけれど、愚かしいから、つまり自国の国益の観点から見て、よくないから、それをしない。しかも、実は、それだけではなくて、国際秩序の安定のためにもよくないからそれをしない。
つまり、日本がこれから軍事的に自立して「普通の大国」になるということが国際政治の上で何を意味するかと言いますと、北東アジアあるいは東アジアにおけるパワーバランスの急激なシフトということになります。しかし、歴史はそういうことが起こるとどうもあまりよくない、非常に不安定な状況になるということを教えてきた。恐らく現在の日米中関係を考えますと、日本が自立の選択肢を選びますと、非常に不安定な関係がそこに生まれてくることはかなりの確率で避けられないでしょう。
ですから、日本は単に自国の国益のためだけではなくて、国際秩序、アジア秩序の安定のためにも(軍事的独立を)我慢する。そして「普通でない大国」としてやっていく。その結果どうなるかと言うと、やっぱり日米同盟基軸で行く。日本人が、そういう道を自分で選ぶのだという意識を持って、そして、よその国が、日本のその選択は、なるほど日本にとっても正しいんだろうけれども、周辺諸国、自分たちにとってもためになることだということを認める。