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あるいは、そういう考えは非常に希薄だったように見えます。ちゃんと自立心というものがあって、ただそれは現実には非常に難しいので、一体、どうやったら、これから日本もようやく一人前に戻ってきたし、自立というものを回復していけるんだろうと真剣に考えていた。

ところが30年経って何が起こっているかというと、特に名は挙げませんけれども、外務省のさる非常に高い位にある人が、私の出ていたある研究会で、日本はやはりアメリカの決めたことに付き従うという面があると言わざるを得ないんじゃないかと質問されたことがあります。この質問に対して、その外務省高官は、残念ながら、それはまことにその通りであると答えた。その答えに対して、その場に出席されていた私以外のほとんど50代、60代の年配の方々は、全く異論ないという調子でうなずいている。つまり、そういうことなんでしょう。

そうすると、30年前にはあったはずの自立への欲求が、一体、いつ、いかにして消滅したのか。これは、本日、私としては、お話しすることができない謎となっているんです。この辺も考えてみる必要があるかもしれません。ちなみに私には、30年ぐらい前に、そういう発言を少ししていたこともある身内がいますので、一体どういうことなのかと聞いてみたら、なるほどそう言われてみればそうだと言って考え込んで、よくわからないらしいんです。

かなり時間がたってから次のような答えがあった。当時、一生懸命そういうこと(日本の自立の問題)を考えていたことは確かだが、なぜそういう議論が消えていったのかはよくわからない。ただ、断片的にもしかしたら次のようなことは言えるかもしれない。あのころ日本がだんだん上昇気流に乗って、アメリカはベトナム戦争で負けて、自立だ自立だと言っていたらアメリカのアジア離れとか言われて、慌てて、いや、やっぱり自立なんてとんでもないと思ったのかもしれない。

あるいは、経済的に成功して何だか安心してしまったのかもしれないというようなことは言っておりましたが、ちょっとよくわかりません。よくわかりませんのですけれども、30年前には、今私が話しているような問題意識に近いものを、恐らく多くの方が持っていて、これから先はアメリカと協調はやむを得ない、そして、それはいやなことではないんだけれども、その中でアメリカべったりでないようにするにはどうするかということが考えられていたはずです。私は、そこに今、戻らなければいけなくなっているのではないかと思います。

 

 

 

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