自立を目指すということを真剣に考える機会が生まれない。なぜなら、自立を目指すなんてことを考えずに漠然と現状維持をしていても、当面はとりあえずは問題が生じない。恐らくこれが、日本にとっては、さっき言った幸運の反面の大いなる不運であって、長期的には随分深刻な問題になるのではないかと思います。
今は自立を目指さなくても表面的にはとりあえず問題は生じない。表面的と言いましたのは、とりあえずうまくいっていても実はその背後にアメリカに依存する心とアメリカに保護されているという意識、それから、それらの裏返しとしての何となくアメリカに対して面白くなく思う感情、一種の反米感情。こういうものがあって、それがもやもやとくすぶることになるから、これも非常に深刻な問題です。
それでは、なぜ日本人は自立心とか目的意識を持っていないのか。最初から持っていなかったのか、それともいつごろからか失ってしまったのか。これについてはっきりとした結論を述べる能力は私にはございませんけれども、いろいろ考えてみますと、現在の日本人が自立心や目的意識を持たないことについて、いくつかの原因というか要因は指摘できると思います。
第一には、私は戦後の日本にも国家戦略らしきものはあった、少なくともある時期まではあったと考えています。が、それは非常に特異な性格なものだったということを指摘できると思います。よく日本には戦略がないと言われまして、現在の日本を見るとどうもそれはかなり当たっているように思わざるを得ないところがございます。しかし戦後をずっと見ていきますと、何も戦略がなくてあんなにうまくいくはずはないので、やっぱり何かあった。ただし、日本が戦後追求した国家戦略、あるいは路線は日本が選んだというのではなくて、歴史の偶然によって目の前に与えられたもの、選ぶ余地なく与えられたものだった。
私が考えるのは、戦後の日本は、経済復興と戦争の後始末とアメリカ側陣営の一員として安全保障を高める。この三つの目標を目の前に突き付けられてそれ以外を選ぶのは、イデオロギー的に特に偏った人は別にしまして、考えも付かなかった。当然のこととしてそれを追求してきたら非常にうまくいった。経済復興については、60年代の終わりごろに、自由世界第3位の経済と言い出したころには目標は達成された。
戦後処理も、後になって、最近いろいろなことが出ていますが、60年代の後半には、例えば日韓国交回復とかああいうのに見られますように、大体片が付いて、日中国交正常化でほとんど一応始末が付いた。