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こういうふうに、自分の進路を自分が決めるという気概がない。あるいは、自分の国をどういう国にしたいのかと言われても、何だかよくわからない。ナショナリズムや国益意識も欠けていて、目的意識もない。ということの根底に、どうも日本が自立性を持ってないというのがあるような気がしてならないわけです。

ただ、日本人にも自立していない日本というものに対するそこはかとないいらだちはあって、それが恐らくはここ10年弱ぐらいの間にいろいろ言われておりますけれども、日本には理念がないとか、顔がないとか、尊敬されない大国だという言い方に表れているのではないかと思います。

理念、顔、そういうのによく「独自の」というまくら言葉が付きます。これが恐らくは、日本では一本立ちしたところがなくて、それをどうにかして取り戻したいという気分の表われではなかろうかと思います。それでは何で日本は自立していないのか。それは、もちろん歴史的ないろんな経緯があるわけです。

近年はこういうことを考えている人もいないわけではないのに、具体的な話としては一向に自立という議論は起こってこない。それはなぜか。ここで一つ考えておくべきことがある。私は、今後、日本の安全保障とか外交を考える上では、自立した日本が自らの進路を改めて決定し直すことが必要だと思っています。国が国際社会で敬意を得るためには、自らの運命は自らの責任で決めるのだという意識がなければならないという議論を、以前誰かがしていたのを読んだことがあります。

日本はそういう意識を取り戻す必要があるだろうと思っていますが、問題は自立した日本が非常に慎重にあらゆることを考えに入れて合理的選択を行いますと、恐らく結果として選ばれる選択肢は、現在日本が採用しているものとほとんど同じものになるだろうということです。多分、微妙な面で違いはあるでしょうけれども。一番基本のところでは、日米同盟基軸路線ということです。今と同じものを選ぶのが、一番合理的になる。

これは、一面では現在の日本にとっては大変ラッキーであります。というのは、55年体制が崩壊してから、いまだに国内の政治的混乱は解消していませんし、有能な政治的リーダーシップが欠如しているという文句も至るところから聞かれますけれども、状況がすぐに改善するようには見えない。こういう政治状況の中で、日本は進路について選択を誤りにくいということがあるのでラッキーであります。

しかし、特に深く考えなくとも実は一番正しい道が選べてしまって、それなりにうまくいくということは、(日本人に)根本から問題を考え直すきっかけをなかなか与えにくい。

 

 

 

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