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ただし、日本の対北朝鮮戦略で肝心なことは、TIT FOR TATと同時に、抑止を一方でやっておくということです。そういうふうにしておけば北朝鮮が核を持つようなことになったとしてもあわてることはない。私は、核兵器だって(北朝鮮が)その気になって開発を続けたらやがて持つと思っておくべきものだと思っています。というのは、核不拡散の歴史は、あるいは核に限らない、あらゆる不拡散の歴史は、不拡散体制は、拡散を遅らせることはできても止められないということを教えているからです。ですからやがて、北朝鮮も核兵器を持ってしまうかもしれない。しかし、その時日本は慌てふためく必要はないということだろうと思います。

日露関係も似ています。日露関係の改善ですごく得をするのはロシアであって、日本としてはこれが非常に険悪になるとよくないでしょうけれども、現状よりよくなったから何かすぐに大きな得があるかというと、そういうことはないわけであります。領土問題等で一定の筋を通して、後は向こうの出方待ちということで、妙に擦り寄ることをしないほうがよかろうと思っております。特に、橋本提案みたいなわりと劇的なものをこっち側から出しているにもかかわらず相手側が一向にそれに応じてこないようなときに、無理にどうこうしなくとも淡々とやっていればいいのではないかと思います。

日本にとってこれらの問題が重要でないとは申しませんが、日露関係についてはロシアはやっぱりヨーロピアン・パワーですし、現在、アジア・太平洋、日本周辺でのプレゼンスが非常に低くなっていることもあります。

北朝鮮は、恐らく問題としては長期的な問題ではなくて、今後、あの国が何年もつかわかりませんが、30年後、20年後を考えたときには何らかの形で今とは違うものがそこに存在する可能性が大きい。もしかするとそれは10年先かもしれない。誰も予想はできませんが、30年先どうかというと、今と同じような北朝鮮はないという方に賭けておいたほうが多分儲かる確率は高いだろうと思います。

ですから、これらはこれからの日本の外交安全保障戦略を構想する上での根本課題ではない。より重要なのは、当然のようですけれども日米関係、日米中関係、それから、日本が世界でいかに敬意を払われる国になって、ナイ教授の言うところの「コ・オプティブ・パワー(co-optive power)」を高めていくかということだろうと思います。

 

 

 

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