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文化を支える政策的な関与がないと形にならない。文化を文化だけで考えていくと、実現の道のりは非常に遠いのではないか。政策が関与していくとき、日本の視点の複数性が徹底的に欠けていると思います。外国人に長くいていただき、その融合が豊かな文化を生むのはその通りですが、まず導入する段階での政策に、文化の複数性の視点が重要と思います。その政策を実現するための視点の複数性をどう組織し、仕組みに取り入れていくか。そこが世界都市をほんとうに実現していくポイントになるのではないか。

 

青木 文化を交流させるためにも、文化に理解のあるしっかりした文化政策が、国と社会、東京などの自治体にもなくてはできないということです。現在、文化政策はほとんどないと思います。

 

陣内 例えば、隅田川は、60年代の中ごろは臭くてかなわない状況だった。東京オリンピックのころが最悪だった。それが35年余の間に、見違えるようにきれいになってきた。環境への取り組みが底力を発揮して、東京のいい資源、自然が、目の前にあらわれてきている。歴史はどんどん失われてきたが、さまざまな市民のグループが、自然保護活動を評価し、何とかしていきたいというパワーは相当出ています。復元力だと思います。行政ももっと取り入れて、大きな都市政策の中できちんと位置づけて、東京の魅力をプレゼンテーションする方法を築いていかなければいけないと思う。

生活感がある都市が外国人が来たくなる魅力です。立派なモニュメント、象徴的な建築がそびえて、立派なコンベンションセンターがあって、経済活動が活発だけでは来ない。人の出会いも含めた生活感のあるところを、1カ月とか2カ月東京に生活した外国人が体験してくれれば、外国人はみんな東京を好きになる。中まで入るという体験が必要です。今の東京都心はあまりにも生活感がない。オフィスビルばかり並んで、小ぎれいにはなっています。が、人を迎え入れる構えになっていない。パリ、ミラノ、ニューヨークでも、外国の都市は、都心にいろんなエネルギーが充満し、生活感もある。そういう魅力ある都市・東京にして、外国人がどんどん来てくれる町にしていく必要がある。

 

アジア人の活躍の場の提供者

 

川本 日本人は外国人を家に呼ばないということは、うさぎ小屋に住んでいるからです。私は、都市と家は逆比例するという説を持っています。東京が活発な都市になったのは、うさぎ小屋に住んでいるからです。うさぎ小屋に住んでいるから応接間がありませんから、人と会うときは喫茶店を利用したり、居酒屋を利用します。東京が活気があるのは、パブリックな空間を共有しているからです。「広い家に住もうと思ってはいけない。これからもうさぎ小屋に住み続けて、パブリックな空間を有効に使うことを考えるべきだ」が私の持論です。

文化発信ですが、その点に関しては消極的で、東京はそんなに文化発信しなくてもいいのではないか。むしろ文化の展示場になる機能が必要です。映画祭はその典型的な例です。昔、ロンドンの人たちが、イギリスは作曲家を生んでいない、偉大な作曲はほとんどドイツ人やフランス人だと言ったとき、いや、我々は作曲家を生んでいないが、作曲家を育てているので、我々は偉大な観客だと言ったという話があります。東京もそういう役割を担うべきで、気張って文化発信、文化発信と言うのはどうか。アジアの人たちが活躍できる場を提供するという提供者、いい観客になるという役割もこれから大事なのではないか。

 

森 別に東京が世界都市にならなくてもいいが、魅力的で、暮らしやすい町はあってほしい。歴史や自然の保全を、16年やってきながら、自分の子供や近所にいる子供たちの環境をよくできなかった悲しみがあります。最近、子供の犯罪とかひきこもり、不登校、公共の場所でのエチケットのひどさというものもいっぱいある。東京は子供をきちっと育てる環境ではなくなっているのではないか。特に、自然の中で遊ぶとか、友だちみんなで遊ぶ場がない。集合住宅に住んでいると、せいぜい小鳥かハムスターしか飼えない。したがって死を見たことがないし、どのくらいの暴力で相手が死ぬかもわからない。こういう状況をどうにかしないと、世界都市にもなれないのではないか。人口が減っている東京都心の学校は、もう一回森に戻すかビオトープにする。できたらそこに牧場をつくって、羊や馬をみんなが世話をするような東京をつくるといいのではないか。欧米ではすでにそういうホースセラピー、アニマルセラピーなども進んでいます。

 

 

 

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