日本財団 図書館


青木 80年代から、アジアの生活意識、都市は非常に似てきたという議論が出てきています。今東アジア文化圏の成立という論文を書いています。初めて東アジアにおいて共通文化が成立するということがテーマです。アジアと日本との、新しい相互依存の文化的関係がようやく出てきたという感じがします。

 

普通の人々の交流が大切

 

森 私が住まいから歩いて5分のところに、「三百人劇場」という芝居小屋がある。ここを映画館に使い、中国映画、トルコ映画など上映してくれるものですから、世界中の映画を見られる。

長らく東京は、文化は置いても、歴史都市であることをあきらめてきたような気がします。追いつけ、追い越せと、経済成長を主体としたために、東京は国際金融都市を目指してきた。三都歴史都市会議というのがあります。三都は、鎌倉と京都と奈良で、東京は入っていません。東京の真ん中を流れている隅田川を、江戸っ子は大川と言って親しんできた。東京が西に膨張するにつれて東の端になってしまいました。神田川の日本橋の上には高速道路がかけられるなど、歴史を無視したまちづくりが行われてきたと思います。

ただ、江戸時代からの大名庭園、寛永寺、増上寺といった神社仏閣、また稲荷や石仏などもっと小さな文化財もたくさん残っているので、これを大事にし、また目だたせる工夫をしてほしい。外国から大統領とか要人が来ますと、工場見学をして、その後すぐに京都に新幹線で行って、ティーセレモニーや夫人の着物の着付が出てくるのですが、ぜひ東京でティーセレモニーも着物の着付もやって、東京の文化をもっと知らせてほしいと思います。

第2に、東京は確かにローマ、パリ、ロンドン、ベルリンのように、1日で歩けるような歴史的な中心地を持っていない。そのかわり、広大な範囲に深川、神田、浅草、神楽坂、古くて楽しい谷中など、愛すべきスポットをたくさん持っています。私も外国に行くと庶民の町を歩いて、バザールや商店街を見たり、路地奥の狭い居酒屋に入ったりするのが好きなんですが、東京は駅前再開発などで楽しいうらぶれた飲み屋もどんどん減ってきました。東京の人はシニカルすぎて、東京を好きだと言ってくれません。自分の町を愛する、故郷への愛で貫かれた文学があるのに、なぜか自分の町、東京への愛情をはっきり示してくれないのがとても残念です。

東京では、サミットトークとか学会といった、インテレクチュアルの人たちの、交流は多く行われているのですが、世界都市になっていくためには、もっと普通の人々の交流が必要と思います。私の町には、年間5,000人も外国人が泊まる「澤の屋」という、小さな旅館があります。そこにスイス人が泊まった。朝早く起きて、お豆腐屋さんを3時間観察して、豆腐のつくり方を見ていた。豆腐屋のおじさんも、英語はできないが、豆腐を一丁あげたら、スイス人は、お返しにチョコレートをくれたというんです。そういう普通の人々の交流が大事になっていくのではないか。文化財保護なども行政や大学の専門家の国際会議ばかりです。文化財は民衆が作ったものだし、住民たちが守ってきたものです。そういう住民同士の交流に予算がつかないでしょうか。

私たちの町に住んでいる外国人が不満をもらすのは、日本人は友達になってもなかなか家に呼んでくれないということです。昔は引き戸や窓があいていて、かぎもかけていないのでいろんな人が勝手に家の中に入り込んで、一緒に御飯を食べたり、遊んだりできた。そういう状態をもっとつくって、家の中にお客さんも呼ぶ。イタリアとか外国に旅行しますと、皆さん、親切に道を教えてくれる。時には連れて行ってくれる。そして家に招いてパスタとサラダでもてなしくてれる。家に上げてくるという関係をつくらない限り、日本は世界都市にはなれないと思うんです

 

青木 私は、ヤルマン先生に、イスタンブールに行くたびに必ずボスフォラス海峡を見下ろす丘にある、大理石のマンションに招待されて、すばらしい食事にあずかっています。南トルコのエーゲ海に面したプライベートビーチとオリーブ園を持っていらして、そこの別荘やマルマラ川に浮かぶプリンセス・アイランドの別荘にも呼んでくださる。10回ぐらい東京でお会いしているのに、1度もうちに呼んだことはない。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION