だから、黒か白かではなくて、ピュアな伝統区間が残っていない。アマルガムになっているような状態で、伝統的な日本の文化があるのかと思います。音楽にしても、ポップス系や歌謡曲など、新しい、いろんなものがまざっている。料理もそうです、建築もそうなんです。伝統をキープするが、どんどん変わっていくのが日本の文化の1つの特徴になっている感じがする。
若者と都市を観察していると、女性の感覚やビヘイビアが都市や文化に与える影響の大きさは、欧米にはない。東京の特徴のような気がする。堺屋太一さんによると、ニューヨークで電話帳をくると、オールド何とかカンパニーというのが多いのだそうです。ステータス、信頼、文化的背景とか古いことに価値を見出す。日本では、新何とか会社というのが多いという。最近の建物でも、since何とかと、建物のどこかに書いてあります。アメリカだと、sinceと来れば、これは古い年代を持ってくるのですが、日本では平気で1995年とか書いてある。これは伝統がないことを暴露しているみたいなものなんです。日本は新しいほうがいいという価値観が強い国です。だから、古い建物の保存がなかなか難しい。これは経済の状況が変化すれば、そうではなくなることも見越さなければいけない。変化する中で、アイデンティティーや伝統や、本来の個性をどうやってより豊かに育てるか。その戦略が日本ではますます重要になってくるし、東京を考えるポイントではないか。
黄金時代を迎えたアジア映画
川本 ここ数年、映画の世界で元気がいいのは、アジア映画です。ハリウッド映画は、全くおもしろくありません。ハリウッド映画が世界をマーケットにしたため、子供相手の映画ばかりになったからです。子供のころ見ていた、ビリー・ワイルダーやヒッチコックの映画のような大人向けの映画がほとんどつくられなくなって、お子さまランチ化しています。これにかわって、大人が見るにたえる映画をつくっているのはアジアの国々です。アジア映画の第1期黄金時代は1980年代でした。この黄金時代をリードしたのは中国映画です。チェン・カイコウ、チャン・イモウといった監督が出てきて、日本でも非常に人気がありました。今、第2の黄金時代で、リードしているのは韓国映画です。去年、「シュリ」という韓国映画が日本でも大ヒットし、その後、韓国映画が続々公開されるようになった。韓国映画を見ることが映画ファンの間ではやっている。おもしろいと広く認知されています。昨年10月、韓国の釜山で第5回釜山映画祭が行われました。これは、近年の映画祭の中で最も成功した映画祭と言われています。成功した理由は、アジアの映画を中心に上映したからです。東京でも、東京国際映画祭が毎年10月に開かれますが、残念ながら、毎年つまらなくなる一方です。東京国際映画祭の今年のオープニング作品は、シュワルツェネッガーの映画であり、クロージング映画は「チャーリーズ・エンジェル」でした。いずれ大々的に劇場で上映するような映画でした。それをなぜ映画祭でやるんだと、我々は怒るんです。結局、映画会社の金もうけ主義で、そういうプログラムになってしまう。それに対して釜山映画祭は、アジアの国々からの、コマーシャリズムに乗らない映画を集中的に上映してきています。
日本では、映画祭の数が、20から30、それ以上あるかもしれません。その中で最も成功したと言われている映画祭が3つあります。それは、性格がはっきりしているからです。北海道夕張で行われている「夕張ファンタスティック映画祭」で、ホラー映画やSF映画、ファンタジー系の映画を上映する。それから、「山形ドキュメンタリー映画祭」はドキュメンタリー映画に絞っています。3番目に最も成功したと言われているのが、福岡市の「福岡映画祭」。アジアフォーカスと、いいアジアの映画のみを上映することに決めています。福岡市は、「アジアに向けた都市」を市の政策にしていて、地下鉄やバスの表示にすべてハングル語や英語が表示されています。
アジアにみんなの目が向いている。東京では、「ぴあ」という情報誌を見れば歴然としているように、アジア映画がものすごい勢いで公開されています。映画産業は斜陽だと言われています。しかし、スクリーンの数は東京では増えています。ミニシアターと呼ばれる小さい映画館が増えているからです。