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そのためにはソフトと魅力を高めることと思います。世界都市としての東京の大きな強みは、欧米以外で世界都市が必要なことです。従って、それはどこだと考えていくと、ネガティブな側面かもしれませんが、東京が浮かび上がってきます。

 

日本の若者文化の素晴らしさ

 

世界都市は情報的に開かれていなければいけない。その点で東京がすぐれている。最大の弱みは、観光客、長期滞在者を含めて、非日本人の参加が少ないことです。それによる発信力が少ないことであろうと思います。東京の強みは、歴史と伝統が今日まで生きていて、世界的に魅力のある文化を持っていることです。この文化は、単に伝統の文化というだけではなく、日々新しく変わり、生産されている文化だと思います。変わっていく文化に日本のすばらしさがある。その一例が若者文化で、政治、経済を含めて最大の今日の強みの1つと間違いなく言えると思います。若者の文化は低俗であるととらえるべきではなくて、子供の心、若者の心がつかまえられることは、大変なことだと思います。今、国際交流基金が欧米の出版社の編集長を招いて、日本の文学を大いに海外に紹介しようという試みをやっている。イタリアの女性の編集長がおみえになった。彼女の小さな娘が、10日も離れて海外に行っちゃうのは嫌だと言って、言うことをきかなかったらしい。ところが、ポケモンの国に行くと言ったら、それならいいと言った。それで来られたと言っていました。それは小さなことではない、非常に重要なことと思います。

日本の若者文化がなぜすばらしいか。文化空家論を山崎正和さんが唱えています。文化が海外に浸透する大きな特徴は、空家であるということです。確かにおもしろい議論だと思います。ローマの文化がなぜゲルマンに浸透したのか。ゲルマンがローマの文化を吸収したときは、既にローマは空家であった。政治経済の実力を持ちすぎている人の文化を受け入れることは、従属・被従属のような関係が生まれる。空家だと、非常に安心して人々は文化を受け入れるということです。例えば、ポケモンは何だというと、人間ではなく、モンスターで、国際的な抽象化が成されているんです。一種の空家を日本人が何となく見出して、自分たちで楽しんでいる。これは外に売ろうと思ってつくっていない。日本の文化は、この150年間、西洋の文化を、自分の意志で、一生懸命自分の中でそしゃくし続けてきた。その結果、ポケモンが出てきたのだろうと思います。だれから強制されたものでもないし、だれかと競争して出てきたものでもない。そこに大きな日本の文化の強みがある。

東京について言うと、世界のどの大都市にもないすばらしいものが、最低2つあると思います。1つは東京湾です。世界の大都市は海に面していない。香港は海に面していますが、香港の海は汚くて、魚は食べられない。ところが、巨大な都市のすぐそばの海で釣った魚は食べられる。きれいな海がすぐそばにあることは大変なことです。それ以上に大変なことは、皇居です。皇居は、16世紀からのバイオダイバーシティーを、鳥や植物を維持している。千種類ぐらいの植物が皇居にあるそうです。それと伝統的文化をずっと維持している場所を大都会の真ん中に持っていることはすばらしいと思います。東京の魅力は、基本的なところにあると思います。ただ、OECDの対日都市政策勧告が言っているように、都市景観の乱雑さ、狭小な土地区画に見られる規制の不十分さ、都市の拡張の非効率、通勤難などの弱点もあります。いずれにしても、東京はこれまでの基礎があるのですから、科学技術、エコロジー、多様な文化、高齢化といったような、21世紀地球文明の中心的な課題、それに関連してモデル性、提案性というものを持っている都市になれるのです。そういう方向が東京の世界都市になる道であろうと思います。

 

世界都市になる3つのポイント

 

それには、3つポイントがあると思います。1つは、非日本人関連インフラの強化で、これはハードとソフトと両面があります。ハードは、飛行場、ソフトは、英語の使用とか、物価水準等々です。3年前にロンドンから帰ってきて住んでみると、実にいいところです。90年代は旅行者で来て2週間ぐらいホテルに泊まってまた帰っていくという生活をしていたのですが、今度帰って住んでみると、実にいいところです。

 

 

 

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