日本財団 図書館


陣内 東南アジアには、例えば、台北の龍山寺のように似たようなところがあります。

 

川本 日本以外の都市の盛り場には、住んでいる人もいる。

 

陣内 だから、あまり過激になりにくい。

 

川本 歌舞伎町みたいに住んでいる人がほとんどいなくて、それ専門の盛り場はあまりない。

 

陣内 銀座だって、今、住んでいる人も少なくなっている。

 

青木 新宿みたいに高層ビルやホテル、飲み屋やブティックもある。シンガポールは、屋台はあるがオーチャード・ロードみたいな所と、全く分かれている。我々から見れば、両方とも盛り場だし、繁華街だ。

 

日下 ヨーロッパだと、上の4階まで人が住んでいて、1階と地下が店です。

 

青木 パリでも中心街は全部、アパルトマンになっている。

 

山室 ミラノだってそうです。

 

青木 北京もつくりや考え方が違う。

 

陣内 北京は、外城のほうに盛り場があります。満州族などが中心部を占めたときに、商売やエンターテインメントの空間運営が得意な漢民族が外へ追い出されて、外城に、それらしきものをつくった。

 

山室 東単とか西単もそうです。王府井とはまた全然違う。

 

青木 王府井は、盛り場ではなくて、目抜き通りかな。

 

山室 銀座に近いでしょう。

 

陣内 戦前には外城にも、結構、日本人がいた。そこは遊郭や芝居小屋とか、相当過激な盛り場のような状況があった。都市空間の質としてそういうものを生み出すメカニズムは、アジアにはあると思います。ただ、ネーミングまではない。

 

青木 盛り場を舞台にした文学作品、例えば、江戸川乱歩はどうですか。

 

川本 『虫』という小説があります。車を使った犯罪の、おそらく最初の作品ではないかと思います。高等遊民の男が車を買う。昭和の初めですから、エリートでも車を持っているのは高等遊民。夜な夜な車で浅草に行って、芝居小屋を見て回る。美しい女優を見つけては誘惑し、車に乗せて、自分の屋敷に連れ込む。

 

青木 江戸川乱歩の作品は、大正デモクラシー的なモダン都市東京を反映しています。大正時代に建ったような、洋館と和風の折衷みたいなお屋敷町です。ああいう新しい新興階層のブルジョアの家なんかが舞台になっているのが多い感じがする。怪人二十面相に出てくる明智探偵が活躍するところです。1960年代の終わりに、雑誌の記者に、江戸川乱歩の東京を書くと言ったのですが、70年代終わりから、80年代初めに、だれかに書かれてしまった。早く書かないとだめです。

大沢在昌の『新宿鮫』シリーズの「風水山脈」の舞台は大久保と新宿の境目あたりです。おもしろいところです。

 

川本 あの人は、これまで新宿の町や歴史などほとんど書いてなかった。

 

青木 今度は、空間的に詳しく書いています。

 

川本 歌舞伎町はいつごろ、どうやってできたかとか、西口の浄水場の話とか、歴史を盛り込んでいます。

 

青木 更地になったところに駐車場があったりして、おもしろかった。前の作品は、最後に新宿御苑で撃ち合いをやったりした。文学作品に表された東京の移り変わりは、現実にも相応している。こういうアプローチでいくと、東京は、それだけ材料が豊富なんです。その時期時期で代表作がある。

 

日下 川本さんの話では、人が住みついた順番、古い人と新しい人で対立しますが、場所にもよる。職業も関係します。例えば、江戸時代は、大名同士が専ら社交をやっていた。江戸の消費は大名にぶら下がっていた。大名の庭へ行って植木を手入れする植木職人がそうです。町人の4割は植木屋だったと言われます。あとは、その金が回っていく。明治になると、役人がアメリカからハイカラ物を輸入する。教育の中心にすわる。それに対するサービス業がある。その後は、丸の内や日本橋が形成され、ビジネスマンが登場する。このビジネスマンが世田谷方面に住むようになると思うのですが、川本さんの話には業務地域が抜けていると思う。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION