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三浦朱門の『武蔵野インディアン』という小説によると、中央線の小金井から先は、もともとは江戸と関係のない人間が住んでいた、いわゆる「シルク街道」で、横浜とのつながりが強かった。三多摩は、明治の最初は東京都ではなく、横浜との縁が強かったので、神奈川県でした。日清戦争のときに、国家の政策で東京都に組み込まれるわけで、三多摩の人たちは、自分たちはもともとは東京の人間ではないと主張している人たちの物語で、新たに家をつくる人たちを批判する。自分たちはネイティブで、新東京人たちに搾取されているという。これまであまり言われていなかった視点で、東京という町が、常に対立関係で開発が進んでいくということを示しています。

黒井千次さんの小説に『たまらん坂』という短編があります。黒井千次さんは武蔵小金井に住んでいて、あのあたりを舞台にした小説をずっと書き続けている。「たまらん坂」は、実際に国立市と国分寺市にある坂の名前です。あるとき主人公が、多分、このたまらん坂というおもしろい名前にいわれがあるだうと思って、いろいろ物語を自分の中でつくってみる。新田義貞の時代に、戦に敗れた落ち武者が坂を上っていて、「たまらんたまらん」と言ったからついたとか、いろいろ考える。図書館に行って調べると、古い由来は何もなくて、最近になって近くに学校ができて、遅刻しそうな学生たちが駆け上がっていくところからたまらん坂という名前が付いたということです。郊外には谷・根・千のような歴史的物語性が全くない、ルーツというもののないところに住むことになった郊外生活者の悲しみみたいなものを描いています。

 

東京の特色・盛り場

 

4番目は「盛り場」です。住宅地とは別に盛り場という第三の空間があります。盛り場は東京の特色ではないかと思う。しかも、盛り場が幾つもある。銀座、新宿、池袋、渋谷などあらゆるところに盛り場がある。それが家と働く場所との中間にあって、大きな役割を果たしている。その盛り場に、現在、アジア人の女性とか、台湾、中国の辺りからたくさんの人間が入り込んでいる。一種のグローバリゼーションが盛り場で起こってきて、次第に周辺の住宅地にも波及している現象があります。

最後に、もう1つ空間として加えて留意しておきたいのが、最近注目されている湾岸のエリアです。私もどう解釈していいのかわかりませんが、これからの東京の1つの重要な空間として注目はしておきたいと思います。

 

●ディスカツション

 

ダウンタウンと盛り場

 

青木 英語で盛り場って何と言うんですか。

 

陣内 例えば、バスリング・プレースと訳した人もいる。つまり、にぎわっている場所。ただ、それは無理やり合わせて直訳しただけにすぎなくて、彼らは使っているわけではない。それから、エンターテイメント・ディストリクトという訳もあります。

 

川本 和英辞典を引くと、アミューズメント・クォーターと訳していますが、無理やりに訳した感じです。

 

陣内 「繁華街」も、日本語はよく使いますが、これも、ぴったり対応する欧米の言語はない。中国語がたん能な人に聞いても、中国語にもぴったりくる訳語はないという。

 

青木 下町のダウンタウンと使うが、ダウンタウンを下町と訳すのがおかしい。

 

川本 マンハッタンの場合、ダウンタウンと言ったら、ロールストリートの辺りも指すからおかしい。

 

陣内 ビジネスの空間が全部入りますので。

 

青木 東京の場合はっきりとしています。

 

陣内 日本の都市は、小さなところでも盛り場があります。欧米は、パリやニューヨークに近いものはあるが、どんな小さな町にもあるのが日本の本質的な特徴だと思います。

 

川本 この間、オリンピックでシドニーに行った人たちから話を聞くと、シドニーには盛り場はほとんどなかったということで、あっても小さくて、井の頭線の駅の周辺ぐらいしかなかったと必ず言います。

 

岡本 タイの屋台が出ているようなところはどう呼ぶんですか。盛り場でもないが、一種そういう空間です。

 

 

 

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