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ユネスコの人たちも、ホテルオークラをキャンセルして、「澤の屋」に泊まりたいという感じです。どこがいいか。澤の屋は非常に町に開かれています。ただ泊まる、寝るだけですが、ご主人がこの町のおいしいものや見どころを紹介しますと、客は町に出ていって、夜は居酒屋で日本人と話す。並びに豆腐屋さんがあり、朝4時ぐらいに外国の人が起きてきて、豆腐の作り方をずうっと見ていた。3時間ぐらい見ていたものですから、豆腐屋さんは英語をしゃべれないが、何かあげようと思って、だまって豆腐を一丁上げたそうです。そうしたら、チョコレートをお返しにくれたと言うんです。

そのような草の根の交流ができてきた。アメリカの駐日大使だったアマーコストさんも千駄木に住んでいましたし、同じくモンデールさんは根津のたい焼き屋のファンでした。私たち「谷根千」も、英語版を出しています。そのほかにも英語でいろいろな町歩きのガイドや地図をつくるボランティアもいる。外国の人がたくさん来るものですから、町の人も、英語をしゃべってみたいと、在住のアメリカ人に英語を学んだり、アジアやアフリカの人から挨拶の言葉くらい覚えたいという人も増えている。

 

保存やストックとなる再開発

 

私たちも海外に行くと、その地域の歴史的な建物を見たり、食べ物を食べたり、土地の風習を知ったりするのが一番楽しいわけです。東京は今まで、巨大都市とか世界都市とか国際金融の中枢ということで、外国から要人が来ても、経済界のトップと会い、工場見学をしてもらって、あとは新幹線で京都に行ってしまいます。京都ではティーセレモニーをし、和服を着てみたらいいのではないかみたいなことになっています。東京でも、日本的な生活に触れたい人が多いと思います。特に滞在型の人たちに人気があるのは長屋、蔵、銭湯、浴衣、うちわ、年末の鐘突き、年初めの餅付き、節分の豆まきといった行事です。私たちの町の場合は上野の鈴本、浅草の末広亭という寄席にも近い。お寺の人たちの雅楽のグループもありますし、禅道場もある。お寺では華道や尺八教室から、茶道もやっているところがあり、文化センターにもなっている。そういうところを上手に外国人は利用しているようです。

ですから、私は東京がほんとうにインタナショナルになるためには、固有の文化を捨ててはいけないだろうと、岡倉天心がナショナルがないところにインターナショナルはないと考えたように、それぞれの国、地域の文化、生活があり、住んでいる人たちの楽しい生活が引き続きできる場所でなければならないだろうということと、そのことを守ることが、グローバル化ではない国際的な力をもつのではないかと思います。

最近の例では、あるマンション業者が、寺町になぜか大きな区画を取得し、9階建てのマンションを建てることになった。寺町の真ん中に高層の大規模な建物が挟まってしまうのは困るということで、若い仲間たちが大変おもしろいことをやりました。その9階の高さまでバルーンを上げたのです。そうしたら、あの高さまでビルになってしまうのかということで、住民は非常にショックを受けまして、瞬く間に500人以上の住民大会が開かれ、交渉しました。マンション業者もなかなか偉いなと思ったのですが、社長が自らが出てきて住民と折衝しました。谷中の場合、普通だと、開発者が出てくると、「帰れ」などと非難や怒ったりするのですが、おもしろかったのは、社長が出てきたら、みんな拍手で迎えたことです。

その後、大人のつきあいをする中で、ついに前面が4階建て、奥が6階建てというマンションになりました。しかも1階に集会室をつくり、前面は町を歩く人のための休憩所にも使えて、色とか素材も谷中に合ったものになりました。なかなかいいマンションができまして、即日完売しました。マンションメーカーもそろそろ、地域になじんだ、地域の新しいストックになるようなマンションをつくっていかざるを得ない時代になったと思います。

現在、もう1つ別なところで大きなマンション紛争が起こっているのですが、それのポスターは在住外国人が描きました。

パリやロンドンに行っても、私たちが見たいものは、歴史的な建造物や、文化ですから、そういう意味では歴史的なストックを、東京は今まで壊してきたわけです。

 

 

 

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