日下 迷宮都市がすばらしいことは同感です。東京に関する外国語文献がないのは迷宮性があっていいのではないか。
陣内 日本人は使いこなしていても、外国人には使いこなせないのは実によくできている都市です。
青木 国際都市の条件としては、例えばその都市を舞台にしたいろいろな小説とか論文とかエッセー、それが何力国語ぐらいで、出版されているかもあると思う。イスタンブールについては、シャルダンやピエール・ロティの昔からフランスやイギリスの文献があり、昔から旅人が来た。
森 ピエール・ロティは「お菊さん」です。
青木 ロティはオリエントが好きで、イスタンブールに長くいた。確かに文献の研究書とか、音楽や美術も含めて考えないといけない。クローデルとか駐日大使をしていた人などが東京について書いています。どれくらいの文献があるでしょうか。
川本 最近、東京の街を歩いていると、アジアからの観光客がものすごく多い。日本人は、今、韓国や台湾がおもしろいといって出かけていく。一方、台湾は日本ブームです。韓国も日本映画や歌が解禁されて、日本ブームです。彼らがよく東京に来ている。だから、必ずしもそんなに、東京が魅力を失っているとは思わない。何で東京に引きつけられて来るのかなと思うと、東京に来るといろいろなものが見られる。例えば、映画に限ってみますと、ニューヨークで見られる映画よりも、東京のほうがはるかに世界中のいろいろな映画が見られる。韓国、台湾、中国の映画があり、シンガポールの映画まで見られる。
青木 ニューヨークはどうですか。いまや経済バブルで、70年代、80年代は東京よりはるかに文化的にいろいろなものがあったが、今は外国映画はほとんどヨーロッパ映画も含めて上映しなくなった。商店やストリートは景気がいいからきれいになったし、また犯罪が少なくなって安全になった。清潔にもなった。インフラ整備も進みましたが、文化面では実に貧しくなったという感じです。ギャップとスターバックスとディズニーの街になってしまった。空虚さを感じます。
日下 東京では吹き替えや字幕はどんな状態ですか?
川本 ほとんど日本語の字幕です。
青木 海外では吹き替えが多い。ドイツに行くと、英語の映画も全部ドイツ語ばかり。朝の1回だけ英語で、ミュンヘンでその回だけ見に行ったりした。また、ヨーロッパ映画も2つのバージョンをつくると、英語バージョンを必ずつくります。『海の上のピアニスト』だって、イタリア語バージョンは上映時間が1時間長いという話ですから、自国の言葉で本国での上映と使いわけている。日本映画もそうやれば結構売れるかもしれません。
長期滞在者が多いベネチア
山室 世界都市を考える場合、トランジットで人が集まってくる側面と、世界中から人が集まって、そこに住むという側面の両方あると思う。青木先生が最初に話した紫禁城も、トランジットに来て帰るだけの話ですね。岡本さんの話の場合は、そこに住んでしまうことによって起こってくる問題が出てくると思います。陣内先生のお話で、人口が18万人から30万人に増えたにしても、基本的にその10%、比率として高いと思いますが、ある程度ほかからは入れないで、自分たちの固有のものを守りながら、ほかから来た人は帰ってもらうような側面もいっぱいあると思います。
そういう形をとりながら、他方で自分たちの固有の文化を広げていく。セカンドハウスとしてという側面は別にして、魅力がほんとうにあるんだったら、住んでしまったらまずい世界都市なのか、それとも、住んでくれた方が世界都市としていいのかということは、かなり重要な問題だと思う。
陣内 人口が18万人から30万人に増えたのは、エリアが広がったからで、古い島の中だけだと7万人ぐらいです。18万人が7万人に減っています。ただし、観光客がものすごく来ているし、本土から通ってくる。ですから、昼間人口は非常に多く、目いっぱい使いこなしている。
住んでいるという定義がまた難しい。住民票などの問題があるかもしれませんがセカンドハウスとして家を持っている人はものすごくいる。