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足の便がいいことと、ホスピタリティーがある、演出がうまい、おいしいものを食べさせて、もてなして、普通じゃできない体験をさせて、お帰り願うということです。ベネチアからシンポジウムや学会、会議の招待が来たら、大抵の人は断らないと思う。そういうことが歴史的体験として彼らの身についているという気がします。

歴史の空間の使い方がうまい。おしゃれで、現代的です。かつては東方からの物資がどんどん揚がっていたところが、現代のフィーリングで使われている。

 

3. 東京再生へのシナリオ

 

では、東京はどうなのか。コピーでお配りした「東京再生へのシナリオを世界へ」に書いてありますが、東京の可能性はあると思っています。ユニークな都市になる可能性もあると思います。エコシティと先端技術都市を結びつけたようなイメージの都市は、東京でなくてはあり得ないと思いますが、問題も多い。

特に、インターナショナルシティとドメスティックシティの組み合わせが悪すぎると思います。というのは、海外から会議とかビジネスで来た人が都心にしかいない。都心は、完全に法人都市といいますか、企業都市になってしまっていて、人が住んでいない。はつらつとした生活都市と触れられないわけです。訪ねる魅力はないまま、ビジネスだけ終えて帰ってしまう。だから、もっと都心に住んで、生活感を出すべきで、いい飲み屋ももっとつくるべきです。今、都市の顔が見えなくなって、都心は無機的なビル街です。ちょっと外へ行くと、生活感がある。谷中も、杉並もかなり生活感があると思う。ただ、物価が高すぎて、観光もコンベンション機能も成立しない。

問題は、文化を経済基盤にできていないことです。これは大きい問題だと思います。文化と経済は二極で対立するものと考えてしまう。東京にはこんなにストックがあり、歴史的イメージがあり、神話もいっぱいあるが、それを現代の世界都市の構想に結びつけていく知恵と努力がない。

次に、自己表現が不足していて、情報化と言いながら、東京に関する外国語文献は極端に少ない。ちょっと突っ込んで観光しようと思うと、だめです。研究しようと思って、若い人がどんどん来るが、言葉で困る。日本語を勉強している人はかろうじて文献を探せますが、英語しか読めない人にとっては、バリアが高過ぎる。

家が狭いから、家に呼べないので、家族の中とか、プライベートなところまで入れない。都心のホテルに泊まって、おしまいという、都市のほんとうの魅力にまで入ってくるチャンスがなかなかない。しかし、今の若い人は、1カ月滞在して街を歩くと、東京を好きになって帰る。原宿の周辺だって気に入っていますが、そこまで行かないで帰ってしまい、もう来ない人が多い。

東京に一極集中していて、横浜、幕張とも競合しているという点です。みんなが同じような条件で競争するのは寂しいと、日下さんが書いていますが、そのとおりだと思います。みんなが違う役割を持って、ネットワーク化して、地域をつくるのがこれからは絶対に必要で、日本は全く逆をやっている。東京圏でもそうだと思います。ベネチア共和国の時代にできたヒンターランドの都市とベネチアは実にうまく結びついている。東京圏のように周辺の中小都市も画一化して、魅力のある都市がなくなっていることはまずい。

それから、アジアの都市とどうやって共存し、役割を分担し、東京の輝きを出すか。東京だけのことを考えないで、ブロックとしての役割を分担しながら、全体のポテンシャルやイメージを高めていくことが大きいレベルで必要だろう。そういう戦略も今のところあんまりないのではないかと思います。

 

●ディスカッション

 

青木 ベネチアの持っていた様々な国際都市性、特に、文化は小憎らしいぐらいにうまく経済と結びついて繁栄の基礎を築いています。それが今でも、まだベネチア、ベネチアと世界中で言われるゆえんです。

東京は、成田空港に着いても、どうやって都心に行っていいか途方にくれてしまう。それで来なくなるところがあります。かつてはそんなことなかった。東京と結びつけたパースペクティブ、非常にわかりやすく、しかも重要な問題をいっぱいはらんでいると思います。

 

 

 

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