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そういう点では、今現在の状況は、すみ分けというような積極的なものではないかもしれない。イスタンブールのよさを融合していこうという動きはありますが、全く動かない。かなり長いことやっていますけれども、全く進展がない。

 

青木 今のお話は、大体、現代都市の抱える共通の問題みたいなところがあります。東京やソウル、北京、ニューヨークもそうです。つまり、イスタンブールは1,600年にわたって世界の首都だったわけです。世界の帝都だったという理由とそのコンティニュリティーというか、現在との接点をどういうところで見たら一番よくわかるか。つまり、街の人の誇りがある、昔からの都市としての品格があるとか、そういう面は比較的、世界都市の重要な側面であると同時に、中東における世俗的なイスラム社会の中心であって、しかも、ロシア、中央アジアと地理的、地政学的な関係です。ロシア革命が起こったとき、ロシアから逃げてきた人たちはイスタンブールに来て、それからパリとかいろいろなところに行った。政治的な難民も含めて受け入れるようなキャパシティーは、まさに世界都市の条件で、その面でもパリやロンドンは近代の帝都だった。歴史的にもスペインからユダヤ人が放逐されたとき、イスタンブールが引き受けた。それでイスタンブールのユダヤ人地区が非常に栄えた。今でもレガシーとして残っている。だから、国際的に開かれた条件は非常に大きいと思います。

 

岡本 ただ、物理的には、そういうよさが極めて薄くなってきています。さまざまな文明を入れてきた歴史はおそらく、空気として残っているのは確かです。というのは、イスタンブールで、カイロやシリアで調査をしてきた研究者と会うことがあるのですが、カイロのように、基本的に世俗的なものをある程度受け入れても、女性の研究者の場合、ハラスメントがすごく多い。みんなが異口同音に、イスタンブールに来て、ほっとすると言うのです。確かにイスタンブールで、ファーティフとか、非常に保守的な地域では難しい問題もありますが、基本的に外国人に対してハラスメントは非常に少ない。そういう空気は残っている。物理的には、例えば、長年残ってきたカフェなどが、メンテナンスもできないですし、金額があまりに高いので、所有者が長いことそこにいられない。従って、そういった雰囲気を維持していくのが非常に難しいという残念なところが多いと思います。

 

川本 言語はトルコ語で共通しているのですか。

 

岡本 オスマン帝国の末期は、ギリシャ人はトルコ語をかなりしゃべれる人が多かった。それ以外の外国人は、トルコ語ができない人も多かった。現在は、新しく今入ってきているのは、ブルガリア、そしてロシア人で、初めは難しいですが、基本的にはトルコ語になっていきます。

 

日下 混血の進みぐあいというのはどうですか。

 

岡本 どんどん進んでいます。もともと純粋なトルコ民族はいません。中央アジアから出てきてから、ずっと混血が続いている。ただ、共和国が成立するまでは、宗教的に、例えば、ムスリム同士は結婚できるが、それ以外は制約があったり、現在でも、慣習法のような形で、男性の場合は異教徒の女性と、かなり自由な結婚をしていても、女性の場合は、心理的な壁が強くて、女性がムスリム以外と結婚することは、特に伝統的な家庭の人たちは若千腰が引けるということだと思います。

 

日下 男から申し込みはあるわけですね。

 

岡本 ですが、混血は、多分、一番少ないのはシーア派とスンニ派のイスラム教徒で、あまりしない。

 

日下 混血の壁は人種よりも宗教ですね。

 

岡本 そうだと思います。出身地の差もないし、カーストみたいなものもない。職業もあんまり聞いたことない。クルド族は差別されていると言いますが、クルドとトルコの結婚はすごく多い。シーア派の流れをくむアレビーというのがいるのですが、アレビーと普通のトルコ人とはあまり結婚しない。

 

陣内 建築の分野でもそうですが、大学で教えている先生たちで女性の占める割合がものすごく高い。イスタンブール工科大学なんか半分以上が女性の先生です。一説には、男は徴兵制で3年ぐらいとられるので、その間に女性は一生懸命勉強する。半分冗談で聞きましたが、いろいろなジャンルで社会的にポジションの高いところにいる。政治家はよく知りませんが、日本に比べて、エリートの女性の社会的地位は結構高い。

 

 

 

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