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古代文明の力と、現代の政治的力とか立地条件を考えますと、これは将来は、東京へ行くよりは北京へ行くという状態が起こるのではないか。それプラス、料理も含めて中国的な文化だけではなくて、「トゥーランドット」まで公演するとなると、例えば今、東京にミラノオペラのスカラ座が来ていますが、5万円とか6万円払って地方の人でも東京に見に来る。ホテルで3万円とか5万円を払うと1人で15、16万円かかってしまう。そのお金の半分ぐらいで北京に行ってフィレンツェ・オペラが見られるとなると、日本人の多くもみんな北京に行くのではないでしょうか。3泊で、1日はオペラを、あとは万里の長城などを見て、中国料理を食べて帰ってくるとなると、東京の魅力はかなり弱いのではないかという気持ちを抱いたのです。

また、空港の便利さでは、新北京空港は非常に使いやすい。成田空港の問題は、もう言うのも嫌という気になっています。あんなに使い勝手の悪い空港もいまでは珍しい。いろいろな点で市場開放で自由が獲得されてきますと、やはり北京のほうが文化施設としての箱物もはるかに東京よりしっかりしています。東京は文化的な箱物をつくってはいけないなんて言うが、とんでもなくて、そうした文化的な箱物は世界の主たる首都の中では非常に少ないほうでしょう。美術館、博物館、などは決して多いわけではない。ニューヨークと比べても少ないし、パリと比べても少ない。これは数の問題ではありません。国民的な鑑賞に耐えられて、訪ねやすくしようというレベルの話です。そういうレベルのものを公共事業でもっとつくってほしいのですが、問題はソフトがないとだめです。

アジアの大都市の中で東京はどういう位置づけになるのか。これからはよほど文化的な魅力がないとやっていけないだろう。ロンドンは70年代、80年代を通してイギリス経済の停滞期のときでも世界中から人が来たのですから、それはひとえにロンドンの文化的な力によるものです。つまり、世界のイベントはほとんどロンドンに集中する。ロンドンだけで世界的なオーケストラが5つ6つあります。テイト美術館やらブリティッシュ・ミュージアムなどいっぱいあり、経済は悪くても、みんなロンドンに行く。しかし、日本の場合、経済が陰ってくると人が来なくなってしまって、今や、観光人口の移動で日本は今年はクロアチアに次いで世界34位。2年前が32位で、チュニジアの下だったわけですが、パリと比べるどころではない。経済がいいときはある程度来るわけですが、経済が悪くなると来る魅力がなくなってしまうのか、という危機感を持ちました。

そういうときに世界都市というテーマで考えてみて東京の基本的な面を文化から考えてみたいというように、欧米だけでなくアジア都市をめぐっていて、実感として思いました。世界都市の条件については、これから問題が出てくると思いますが、この間、「21世紀の東京」という記事を新聞で読みました。「千客万来の世界都市」というキャッチフレーズを東京都が出したら、嘲笑が起きたというか、批判されたということが新聞に載っていましたが、千客万来の世界都市が何なのかわからなくて、そんなことを言ってもしようがないでしょう。千客万来は必要なんですが、果たして千客万来の世界都市というのは一体どんな内容があれば、どういう動きがあればそうなるのかという議論を抜きに、そういうことが言われても困るわけです。

世界都市の条件としては、これから皆さんがいろいろと問題を出してくださると思いますが、政治の中心、経済の中心、あるいは人口が多い、文化の中心とか、いろんな条件があります。古来、ローマ、ベネチア、フィレンツェ、パリ、ロンドン、あるいは20世紀初頭のベルリン、ハプスブルグ王朝時代のウィーン、二重帝国(ハンガリー・オーストリア帝国)のブダペスト、北京、上海とかいろいろと一度は世界都市として輝いた、あるいは現在でも世界都市として一応認められている都市は世界にいくつかあります。デリー、テヘラン、バグダッド、カイロ、アレクサンドリア、イスタンブールとか、こういうような都市についての知見もいただき、世界都市の東京のあり方を考えていきたいと思います。

本日の第1回目は、歴史や文化面からの世界都市論を展開していただきます。まず、岡本さん、そして陣内さんに話題を提供していただきます。その後、ディスカッションということにします。

 

 

 

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