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日本は衰退の一途などと言う人がある。秋に初めて韓国に行ったのですが、実情は全く違いました。エンジンは全て三菱なんです。エンジンなんてすぐ生産できると考えるのは誤りで、まだ日本とアメリカだけに限られた精密工業であり、精度の高い生産過程管理が要るもののようです。日本は近隣の途上国に技術移転して、自国では独自の新技術・未開拓研究に自信を持って進むべきだと実感しました。

 

佐貫 三菱の直噴エンジンは、トヨタよりもどこよりもいいんです。ただ、全体の車としては戦車をつくっていたわけですから、ユーザーにとってまずいビジネスなんです。だから、トヨタの車は、ユーザーにとって非常に役立つ技術なんです。ところが日産はどうか。東京大学工学部を卒業して、名古屋に行くのは嫌だから、それで日産に就職している。従って、「何だ、そんな技術、大したことねえじゃないか」と言って、若いやつをこきおろすというんです。だから、日産がまずいのはそこにある。評論家になっちゃうんです。日産の技術屋の優秀なやつは、全部技術評論家になって、物づくりの技術屋じゃない。

最近、ワシントンで、カリフォルニアでやっているような先端技術よりも、はるかに進んだやつをつくり始めた。東海岸から先端技術の開発が移っている。

 

古川 シリコンバレーに同種属が殖え過ぎて、刺激が減りつつあるらしい。

 

佐貫 日本も東京のどこかでそういうことができないのか。今やっているのは、要するに新しい技術と製品を研究開発して、それをつくるかつくらないかを工場の側と企画部と技術本部と3者で話して、やるということになる。それをつくるための機械を設計して製造して、レイアウトしてメンテナンスするようなシステム開発を始めている。そして技術レベルの低いものはアジアで、ちょっとレベルの高いのは台湾で、専用品の非常にオンダストロン単位の精度を要するものは国内でつくっている。結局、生産分野と技術分野が一緒になってないとだめなんだそうです。これを称して、母工場、そういう形でセットで立地するものは、東京の真ん中、東京駅から鉄道で1時間の範囲と言われています。北は宇都宮から白河ぐらいまでです。電車で行けば柏ぐらいです。柏にNECの事業本部が立地している。そういう点からすると、意外と表には出ていないが、そういうやつをもうちょっとうまくやって集中化できないのか。

 

日下 米国の東海岸の奥様方が一番行きたいところはサンフランシスコの街だった。そこで高給を払ったので一流の人が集まった。それは昔聞いた話です。今集まるのはIT革命でインド人と中国人ばかりす。だから、アメリカの奥さんは、またワシントンのほうへ戻った。サンフランシスコの近辺はインド人と中国人にとってなぜ魅力があるかというと、街がないからだ。人種差別を感じないからだと、僕は思っている。自動車とショッピングセンターと研究所だけで暮らしていますから。ですから、基本特許は取れるが、応用特許は全くない。だって、街のにぎわいがないんですから、実用新案特許なんて考えられない。基本特許を取って、ノーベル賞を取る。もうかる特許はあそこには何もないという状況です。

日本は、ノーベル賞はない、基本特許もない、実用新案特許ばかり山ほどある。これを見て、日本人はオリジナリティーがないといわれるが、そうではない。オリジナリティーのある人材は、この街のにぎわいを見て、すぐもうけを思いつくからです。そういう人を集める力が三菱や日産にない。だから、大企業体制が悪いんです。

僕は、アメリカの人たちに、「東京に住んでごらんなさい」と言います。ヨットとスキーが両方できます。そんなところはアメリカじゅうにないでしょう。シリコンバレーはスキーができないけど、日本はすぐできます。これは島国の日本のいいところなんです。

だから、余計な規制をなくせと、運輸省へ行っていつも言っている。ヨットに免許証がいるなんてばかな話があるかと。

 

お手々つないで“老稚園”

 

古川 規制緩和すれば、東京は世界一の都市になれる。菊竹先生の海上都市の話ですが、あれは地主が横暴だから海へ逃げるんです。地主を保護したから、海上都市へ目がいくんです。人権を保護したからマフィアが入ってきた。地主が賢くて牛を売り損なうという話なんです。あんまりごねるから、建物が海へ逃げちゃうわけ。

 

 

 

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