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佐貫 多摩川と江戸川と荒川の橋を2倍にしろと、自民党の『自由新報』の「論壇」に書いたんです。橋は一品料理で設計をかくんです。昔の造船業です。それを標準化するのです。そしてバーッと架ければ、橋のところの渋滞はかなりソフト化する。一品料理化をやめて、標準化して、同じ型の橋脚を生産したら、公共投資は安くなるという感じが出てきた。

 

平山 日本で鉄の消費量が少なくなったという話があります。一方、鉄は文明の尺度だというので、鉄の消費を増やすためには、標準化した橋を10個ぐらい東京近辺につくればいい。多分、大阪近辺もつくるだろうから、それをやればということをちょっと言ったことがありました。

建築家は、自分で設計して自分の独創的な発想があります。橋の設計は、構造力学的なことはやるけれど、デザインから何から、橋の格好のよさとかはない。橋の技術は日本では建設省(現国土交通省)が牛耳っている。東京都にしてもお役人出身のペースですべてが決まっている。土木を出て橋の専門家になるためには、人事院の試験を受けて、受かった人しか認められない。ですから、日本の橋についてはデザインの自由度がない感じがしました。

 

菊竹 ヨーロッパでは、マイヤールのようなすごい美しい橋があります。

 

平山 実用的な橋も、美しい橋もつくれないという気がした。

 

佐貫 留学生の問題と、看護婦さんを加えて、先端医療技術を使えるようなお医者さんではなくて、それらを教育する大学を東京湾につくる。看護婦さんは、国際的な高等看護大学にして、海外の学生に4年間留学してもらう。英語ができるので、日本語も覚えてもらう。現地で面接試験をし、ODA資金で連れてきた。

 

古川 日本の看護婦不足を外国人で補うべしなどと言われると心配です。日本国民の1人当たりの看護婦数は、先進国と並んでいます。それが何故不足か。病院が多過ぎ、病床が多過ぎるからなんです。ヨーロッパは1990年までに病院を減らし、人口当たりの病床数も減らしています。病院は新鋭の診療技術を集約して、「助けられる病人を助ける」のです。こういう病院を急性期病院といいます。これは少数でいいんです。そこには看護婦がたくさんいます。しかし生活習慣病という名前になった慢性病には積極的治療はまだない。いわんや高齢者で日常生活が不自由な人も同じです。どちらも比較的少数の医療スタッフで充分お世話できます。その事実を国民も医師も認めて、日本の医療制度を改革すればいいんです。人間はいつかは死ぬのですから、ヨーロッパでは神様のご意思に任せようということになった。

デンマークで調べた例を申しますと、日本の要介護者判定基準よりはるかに緩やかで、ちょっと日常が不自由というだけで施設に入れてくれます。そういうちょっと世話をすれば済む高齢者が全国で約8万人いるそうです。人口500万人強の小さな国ですから、8万人を自宅で介護するには夫婦のどちらかが職を辞めねばならない。共働きが北欧3国では普通ですから、夫婦のどっちかの8万人が労働力から外れる。ところが8万人の介護施設を作ると、この8万人の労働力が救出できる。しかも要介護8万人を世話するために3万人の専門職が要る。合わせて11万人の雇用市場を創出できたとデンマーク政府は胸を張る。日本の医療介護の関係者もいい加減に目覚めて欲しい。

 

佐貫 高齢化社会のデータを、私の教え子のおやじ、一高・東大の医学部を出た人のところへ送ったんです。そうしたら、今の介護制度は間違っていると返事がきました。いちいち年寄りのところへ行って診療しているというんです。これの往復の所要時間がものすごくロスなので、老人を集めたところへ医者や看護婦が行くほうがよっぽどいいと言っています。

 

古川 高齢者を集める場所は、さっきおっしゃっていた昔の小学校。

 

平山 今、都心の小学校は空いています。

 

古川 お手々つないで老稚園に行けばいい。僕らの仲間はみんなそう言っています。

 

佐貫 問題は、そういうところへは、老齢人口の後期、75歳以上ですが、特に80歳以上になったら入れるようにする。ロビーもあるし、食堂もあるし、元気な人は食べにくる。ある先生に「入居金は幾らぐらいですか」と言ったら、「400万円の入会金を払って、月1人20万円。夫婦ならば30万円で生活ができる。こういうシステムを考えたほうがいい」と。そのかわり医者が緊急のときに来る。

そういうところへ、フィリピンあたりからODA資金で4年間勉強に来てもらって、終わったら3年間奉公してもらう。一定の賃金を払って。帰るときには、日本の銀行のマニラ支店に、ボーナスをまとめて送ってやる。そういうやり方をしたらいいんじゃないかな。

 

菊竹 いろいろご教示をいただき、ありがとうございました。最後になりましたが、こういう議論の場をつくってくださいました東京財団の日下さんに心からお礼を申し上げたく思います。ほんとうに、いろいろな分野の違った話を伺うことができまして、大変刺激を受けました。

 

 

 

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