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銀座の小さなクラブを土曜日に借り切って10人から15人程度の人数です。その人達に勝手なことを言ってみている。向こうも負けずに言い返すのもいます。落語の大家さんの話みたいに、何か御馳走して、自慢話をすべきだと思いますので、借り切ったときには、私が金を出すということで行っております。

年寄りは道楽をすべきだと思います。今の日本では65歳を過ぎた人たちの持っている金は莫大です。そのお金をどうやってむだ遣いさせるかというのが、日本の変な景気対策よりはよほどよい策だと思われます。65歳過ぎた教え子達のクラス会に行くと、むだ遣いをしろと勧めるんですが、あまりむだ遣いしない。むだ遣いをする元気がなくなった。むだ遣いをするためには、道楽をしなきゃいけない。道楽をして、なおかつ、老人はおしゃれにならないといけない。

好奇心だけで若さは失わない、と有名な詩人サミエル・ウルマンがいっておりますけれども、好奇心を失うと早く老化してくる。お洒落というのは、年寄りにとって大変おっくうなものです。ネクタイもしないでタートルネックとかハイネックのような楽な服装で家の中でごろごろして、同じ格好でどこでも歩きたいと思うようになる。おしゃれをするとむだ遣いをするものです。

色気を失わずに、お洒落をするには、ネクタイのみならず、眼鏡も靴、時計も何種類か持たなければならない。

道楽をするためには老人が都心に住むようにしたらいいと思います。老人が銀座に夜型で遊びに来るようにしたい。夜型の老人は、昼間寝ていて、夜おしゃれをして銀座に出てくる。私は中央線に住んでいるんですが、夜は上り電車はすいている。それで銀座へ行って、夜10時ごろから12時まで遊んで帰ると、困るのは帰りの電車です。帰りはタクシーに乗って帰ろうとすると銀座地域を出るだけで30分以上かかる。空車のタクシーが2列も3列も並んでじゃまをしているからです。銀座にタクシーの乗り方規制をしていますが、何時でも乗れるように、タクシーの規制のやり方を変えてほしい。

都心の老人向けのマンションをぜひつくってほしい。都心で小学生がどんどん減っておりますから、小学校をつぶして、老人向けの別荘的マンションをつくる。そこに入れる資格のある人は、少なくとも道楽をした経験者に限る。でないと、まじめな人が銀座に住んでも意味がない。そのような老人は、山の奥の農村へ行って、山間僻地に別荘をつくって住んでいただいた方がよい。

それを奨励して東京都の地方税も安くするとかしてほしいものです。

 

安心感のある都市

 

次の話としては、老人にとって東京が安心な都市であってほしい。外人がたくさんいると不安だという話がありますが、健康と犯罪に対して不安のない生活というのが、老人にとって重要である。これは老人に限らないことだけど、年をとればとるほど、死の恐怖というのが口では言わないけど、あります。

健康の問題に、病院と老人とがあります。患者の立場で考えてくれる病院というものを、ぜひつくっていただきたい。今は何となく、医者とか、あるいは看護婦とか、運用のしやすい病院というものを建てているようですので、患者の立場で都合のいい病院をつくってほしいと建築家にお話をしたことがあります。

例えば病院の戸は引き戸になっているといいんですが、診察室は引き戸になっているけれども、ほかのところはドアなんです。こういうドアは、車椅子で一人で行っても、うまくあかないんです。点滴を車で転がしていくときにも、うまくあかないのです。必ず看護婦がついて歩くということになっていますが、看護婦がついてゆくところは少ないのです。患者がある程度回復したときに、病院の中を自由に動けるような手すりとつけるなど、工夫して欲しいものです。病院で転んで足の骨を折って、それで寝たきり老人になってボケる率が多いという話を聞いたことがあります。

それから、院内感染が一番多い。病院の中の空気が汚染されると、それがくるくる循環していて浄化されないで菌が蔓延していることがある。若い人の肺は、空気が入ると、吐くときに浄化して出ていくが、老人とか子供はろ過する力がないから、そこで病菌がいい温度といい湿度にある人体の中で、培養されて菌が増幅して出てくる。

 

 

 

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