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被害が10兆円だそうで、そのためにあと復旧に10兆円つぎ込んでいるんです。当然もとに戻るはずが、全く戻っていない。昔の活気がどこにもない。あの10兆円はどこに消えたか。

これは市役所が使ったものですから、全部型通りの広場ができました、街路樹が入りましたというもので、全部公共事業だらけで民間活力が全然消えちゃっているわけです。あんなことなら10兆円減税してくれたほうがいいんです。10兆円減税していれば、会社は本社を移すし、商売人は行くし、だと思うんです。

 

菊竹 例えば、海岸のテトラ。あれなんか全くむだだという感じがします。そして堤防を延々と、人が住んでいないようなところまで海岸線にずっと堤防をつくっている。津波が来たら浸食するというんです。

だけど、じゃ江戸時代はどうやったかといえば、虹の松原でごらんのように砂浜にして、そこに松を植えて、そこで津波がプロテクトしますから、景観もよくなるし、そして緩い砂浜で波も防げるし、海水浴もできる。それで防災や何かの問題は何もないわけです。

それがとにかく全く不粋な、しかも高さが相当高いんです。十何メートルとかそういう防波堤をずっとつくるわけです。だから葉山の御用邸の前なんか、全くこんなものをだれのためにつくるのか。それが100年とか200年に1回しか来ないなんて、たまには来たっていいんです。そういう発想が役人の頭の中にはないんじゃないかと思う。

そして、テトラも全くルーチンワークですよ。業者と結託しているんじゃないかと疑りたくなるほどです。とにかくあれはどんどん沈下していくんです。だから入れても入れても賽の河原で、何の役にも立たないものなんです。

 

日下 あれは川の上流にダムをつくるから、土砂が出てこないんです。ダムの中にたまっているわけです。それをとってテトラポットに加工して下に置いているわけです。

 

菊竹 海面上昇、あれは国土地理院の調査の結果があります。そして、高低でちゃんとどこまで浸水するかという地図があります。2050年で一番大きな数字は、10m水位が上がるという計算なんですが、これは相当大変なことです。かみそり堤防が全部だめです。だから別の方法で考えないとだめです。

やっぱり相当力を入れているのはオランダです。オランダは戦々恐々としているわけです。今つくっている堤防がほとんど役に立たなくなる。そのためにオランダの国は、こんど高層建築のスタディをやり始めたんです。

あんなチューリップをつくっているオランダみたいな水平都市がせいぜい1階とか2階建てしかないような、そういうところが高層建築をやり始めた。都市を高層化して水没を避ける。建前は、オランダの植民地だったインドネシアの過密都市対策で、人口の集中してくる都市のスタディだということで予算を取っているんだそうですけれども、本当は自分の国なんです。

 

平山 1m、2m海水が上がっても、1m分だけ床が高い、最初からそういう家で、しようがないから1階は、そのころは使えないけど、ただ柱だけが残るという都会をつくる。最初から1階部分は、水が入ればもうそのまま水が流れるようにしたらいいじゃないかというわけにはいかないんですか。

 

菊竹 都市は輸送の問題もありますし、どこまでどんなふうに波及していくかという、つまりシステム的にやる必要があるわけです。みんな水位の問題はわりあいのんきに構えているが、高低差で浸水してくると、どこまでもそれが行くわけです。

地震だと大体において30秒ぐらいで終わっちゃいますが、水害というのは延々と増えてきて、いつ終わるかわからない。上流のほうで雨が降っていると増えてくるわけです。その恐ろしさはやっぱり経験がないとわからないんです。

 

古川 福岡の大豪雨で、市内のビルの地下で1人亡くなりましたね、飲食店の従業員でしたか。僕は第2室戸台風のときに経験しましたが、地階が水没するのは1分です。

研究ファイルは山ほどある、スライドが棚いっぱいある。持てるだけでも持ち出そうと部屋に飛び込んだら水はもう腰まで来ていた。辛うじて泳いで出るしかなかった。

 

 

 

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