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それをやったらカビが出て大変だと、みんなはいろいろなことを言っておりますが、5年ぐらい経験ができてから、またいろいろお話ができるのではないかと思います。

もう1つは木です。木があると精神的には非常にいいのです。本当に湿気を吸ったり吐いたりという効果を持った木材は、一体どのぐらい厚みが必要なのか。これは本当は建築がやるべき研究ですが、今や日本は林野庁の研究所でなければその研究者がいません。それからそういうものをやるセンサーがものすごく遅れています。空調で環境を整えているというのですが、温度はセンサーでチェックしていますが、湿度はむちゃくちゃです。

正倉院の御物を保管している倉庫も、初めはあんな所に入れておくと、御物がだめになるからと立派な宝物殿をつくりました。空調で、1年間を通して一定温度、一定湿度としたら、銀のものは黒くなってきたり、いろいろと御物に具合が悪いことになってきました。あらためて新しい方法はどうやったらいいかと、木材を使った倉庫をつくって、その中に今入れています。その外側はコンクリートで耐火的な設備をつくっています。そんなことで、今、環境は非常に転換期にあります。

 

古川 「1,000万都市というのができたのは20世紀の終わりからの事件」とは、私の調べでもそうなのでたぶん常識なのだろうと思ってました。改めて言われると大変不思議です。というのは生物ではエネルギー保存の法則上、効率が一番いいのは巨大化です。生物進化はおおむね巨大化です。だけどプラキオザウルスでしたか、50トンもある恐竜より大きな陸上生物はでてきませんでした。クジラより大きな水中生物もでてきませんでした。何か限界があるんです。背骨や肋骨の数はある程度融通がききますし、恐竜は神経伝達の時間を縮めるために、脳まで分散型にしていますが、心臓というポンプは1個しかありません。それが限界になるので、都市の心臓も分散しなければ困ります。

心臓ポンプをあちこちにばらまいたら、もっと大きな生物ができるはずです。ついでに口はどこにつけるのが効率的かといった疑問にも自然が解答を出したかも知れません。今の巨大都市に1,000万人がひしめき合っているのは、むやみな巨大集団の動物がわんさと集まっているような状態です。ドミノ倒しの延焼を防ぐにも、個体の安全のためにもスペースが必要です。都市では30万から50万ぐらいの小クラスターにして、その間を楽しく行き来できるような設計が必要です。遷都すれば何とかなるでしょうが、たぶん、100年かけないとできないでしょう。

 

デッド・コピーの悲劇

 

西欧の病院のフロアとフロアの間にインタースティシャルスペース(IS:Interstitial Space)というのがあります。ISにはあらゆるパイプが通っています。電力、配水、排水、麻酔ガス、酸素などのガス配管、吸気用の真空パイプなどなど、みんな入っています。おまけにコンテナの通路にもなっています。退院患者のベッドはチェーンブロックで吊り上げてISにポンと落とし、それを中央でベッドごと完全に高圧滅菌します。それをラッピングして資材庫に入れます。入院患者があるとそれを運んでラップを破れば、清潔なベッドが用意されます。日本ではそういう病院はありません。患者さんが退院しますと、シーツは新しく交換しますが、マットは消毒剤をシューッとかけて裏返して一丁上がりです。先進国でこんなに貧弱な病床管理は日本だけです。わが大和民族は、物資搬送に関して先天的な欠落がある。盛り場の朝はカラスのえさ場です。廃棄物の搬送路を全く設けていないからです。ディズニーランドを見倣ったらよいと思うんです。日本人に任せると最新病院がどんなに奇形化するかは、築地の聖路加病院の惨状をご覧になれば分かります。あれはソルトレークの近くにあるセント・マークスという病院の完全なデッド・コピーです。

そうなった経緯は、私が聖路加病院を再開発する計画の準備委員会で、余計なことを言ったからです。私の推薦する病院は3カ所ありました。ストックホルムのヒュッディンゲ病院、コペンハーゲンのビドブル病院、それにソルトレークのセント・マークス病院です。最終的に責任者はどなたか知りませんが、セント・マークス病院が大いに気に入って完全デッド・コピーを建設しました。

 

 

 

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