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菊竹 歴史の中で1,000万都市というのは20世紀末に出てきた問題で、人類にとっては非常に新しい経験で、いまだかつてない巨大都市の問題です。巨大都市が滅亡するのか、再生するのかわかりませんが、歴史的に全く出現したことのない巨大都市を、これからどう誘導したり、再生したりできるのか、そういう視点で本当は考えなくてはいけないテーマです。

マンモスの絶滅には、気候変動、地震、災害、食物がだんだんなくなってきたという説がいろいろありますが、都市は巨大化することで非常に能率がよくなっています。熱的には、確かに外部の熱変化に対して、大きい容積を持ったものが最小の面積を持っているというのは、本当は熱効率として非常にいいわけです。ですから建築の側から見ていると、非常に容積の大きなビルをつくりますと、比率として表面積が非常に少ないですから、中は冷やす一方になってしまいます。あまり暖房はしなくてもいいわけで、暖房というよりは、全体に熱をどううまく抑えていくか、冷房が主体になってくるような傾向があったわけで、ビルというのはどんどん大型になってくるのかと思っておりました。今はどちらかというと自然の環境に対して表面積を大きくとって、自然の熱的な条件を、うまく建築の中に取り入れていくことを考えていく方がいいという話も、一方で出てきています。どちらなのかがよくわかりません。

 

新鮮な室気・水の概念

 

バックミンスター・フラーさんが、都市全体を1つのドームで囲んだ方がいいという提案をしています。ミニマム・サーフェスというコンセプトで、とにかく全体を覆ってしまい、中はそれぞれで使い勝手のいいようにやったらいいのではないか。しかし例えば、新鮮な空気1つをとっても、新鮮な空気というのは概念があまりはっきりしません。空調の技術で、汚れた空気を新鮮にする方法というのはありませんから、ミニマム・サーフェスでとにかく覆って、一見非常に能率がよくなったような気がしますが、基本的に空気をうまく浄化する方法がないと、そういう原理はうまく適用できないのではないか。ですからフラーさんが、ニューヨーク全体を1つのドームでおさめたいということをいわれたのは、とてもおもしろかったのですが、やはりそういうものの底辺に必要な、もっと大変な空調技術というか、空気を新鮮にする、冷やすとか暖めるという前の、一体、新鮮な空気とは何かというような話が全く欠落していて、誰も考えていません。空調でも、ビルの設計をやるときに、外から取り入れる空気はみんな新鮮な空気と仮定しています。しかしそれは、本当はものすごく汚れている空気であったりします。

ですから、新鮮な空気というのは一体どうなのかというのは、氷に閉じこめられた南極から取り出してこなければどこにも見つからないとか、妙な話が出てきます。

水も同じです。おいしい水、新鮮な水、いい水とは一体何なのかというと、案外わかりません。しかし、火を消すのに何がいいかといろいろ実験し、化学薬品で消せば非常にいいのではないか、もっといい方法があるのではないかというと、結局水が一番いいんです。これは不思議なことです。ほかの物質でやると、別のものがそこに発生して、人間に有害であったりします。ですから水自体も、とてもおもしろい内容を持っているのだと思います。

都市が100万人ぐらいのときは、どこか遠い川の上流から水をずっと引いてきて、上水という形で供給をしていれば、それをうまくリサイクルしたり、いろいろなことをして使っていればいいというようなことになっていたのですが、1,000万人のような、考えられないぐらいの都市になると違う話になってきます。リサイクルしたり、いろいろなこともあります。特に今から20年ぐらい前までは、日本は1,000mm以上降る雨水があるので、雨水をもっと利用したらいいのではないか。雨水は全部、川に捨てて海に流しています。こんなに大量に降る先進国はありません。しかも年間を通して非常にコンスタントに降っています。雨水をもっと有効に使えばいいんじゃないかといって、雨水をどう使ったらいいかと考えたことがあります。

 

 

 

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