佐貫 5戸買うんじゃなくて、せめて3戸。そうすると、自分が年取ってきたら1戸は貸して生活の支えにする。年金だけじゃなくて、1戸は息子にやってアフターケアしてお互いに助け合う。
菊竹 そういう問題提起をどういうところでやったらいいかわかりませんか。
古川 土地を分割して売るなという規制を設けて、そのためにまず自治体を民営化する。共同住宅のアパートでは改造などというと、居住者の組合が合意しなければ出来ないでしょう。勝手にオフィスを開いてはいけない、暴力団は出ていけなどなど。同じルールを市町村を住宅組合の単位と考えて、行政を民営化する。そうすれば1000坪の土地が空いて家主がいなくなった場合、日本中探せばお金持ちで1000坪買いますという人は居ます。その時に自治組合が審査して、巨大なベンツの黒幕でなければ町内に入れないとか、逆に怖い筋の人は入れないとか決めれば良い。どちらも売却収入から相続税を納めれば、住居環境は維持できます。相続税が悪税なのは分かっています。それは別に考えるとして、とにかく1000坪は保存したまま欲しい人に譲渡できる。売却代金は相続権のある子供が均等配分すればいい。今の行政は頑なに分割相続、売却にあたっては更地にするなんて、嫌らしい方法を墨守する。地区住民の組合が行政を担当するのがいいんです。それは行政の自由化です。
小学校をマンシヨンに
菊竹 環境からみると深刻な問題です。東京の蓄積の中には、非常にいい住宅もあるし、公共的な施設もある。だけど、例えば、ライトが設計した池袋の自由学園などの学校施設なんかも危ないんです。歴史的な資産としてストックされてもいいもので、東京以外にないものです。東京だけでなくドイツの、あるいはアメリカの建築家が日本に来て、ある程度その時代に非常にきちんとしたことを考えてやっているものがある。日本の建築家のものですぐれた文化的資産がある。ところが、そういうものを歴史的に保持できない都市というのは、これは市民の都市とはいえない。何か不能者みたいなものです。
佐貫 僕の近所で、防衛庁長官をやった松田さんという方が亡くなったんですが、一部分は相続税払うために大蔵省に渡し、残された部分はつぶして、下はファッションのお店みたいになるだろうと思うんです。中に植えてあった植木が全くゼロになっちゃった。
古川 物納するときには更地にしなければいけないというのでそうなる。
菊竹 文化財になるものが、無駄に壊される運命にある。
佐貫 仙台高等裁判所の長官の家の敷地も300坪なんですが、太いイチョウの木がある。枯葉が落ちてくるでしょう。隣近所から文句が出る。
平山 今のお話は、私の家のことでぴったりの時期になっていまして、あと4、5年で死にそうで、自分の持家をどうしようかと迷っているとこです。私は今、小さなマンションに夫婦二人で住んでいて、今まで住んでいた幾分大きな家は息子夫婦に住まわせていますが、不動産は私の名義になっていて、これは税金を取られているのです。身につまされる話です。65歳以上になって、少し小金を持っている人は、別荘を軽井沢や伊豆に持つのはやめて、都心に別荘を持つようにしたらどうかという提案をしたい。年を取ったら少し遊び人になれ。
泰明小学校を老人マンションにしたら、銀座が復興するかも知れないという説を私がクラブのママに言ったことがありました。年寄りは、いままで長年住んでいた家と、年を取ってから新たに別荘を都心に持つという考えが面白いと思いました。銀座の商店の寄付金と東京都の補助金とで助成してつくれば都心に老人マンションが出来る。そこに入居できる老人はその昔、40歳から50歳ぐらいのときに銀座で、あるいは新橋で遊んだ経験者だけがそこに入れる。1回も道楽したことのない老人は入る資格がないことにする。まじめに大学の先生やって、毎日講義に行って帰っていつのまにか老人になったような方は田舎に別荘を持つべきで、都心に別荘を持つ意味がない。道楽者のなれの果てが、江戸時代でも新しい文化をつくってきた。文明は道楽者につくれないが、文化はつくることができる。道楽は人生の究極目標です。