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怠け者の医師しか雇えない病院では、その分仕事のしわ寄せが他の職員にかかります。国公立病院の看護婦は不足していますが、定員法で削減対象になって採用の余地がないのです。もっとも深刻な事態は、入院、外来とも患者数が欧米の2倍もあることです。これでは看護婦も忙し過ぎてミスを犯す危険も大きくなります。その改革は欧州では完了しました。1990年までに総合病院の数も病床数も急速に削減されました。急性病は病院へ、慢性の生活習慣病や高齢者は専門の施設へという方針です。長期療養病院ではスタッフ数は少なくて済みます。亡くなった渡辺美智雄代議士が、途上国の医師看護婦以外の医療スタッフの研修を目的にした国際医療技術交流財団を設立し、私も役員を頼まれて10数年になりますが、ODA関係などの資金で、薬剤師、栄養士、臨床検査技師、X線検査技師、保健婦、リハビリテーション要員などを総計500人以上招聰して訓練している。結論はまだ先の話ですが、多くの途上国にとっては焼け石に水です。現地の体制も悪く、途上国援助の現場にどれだけ役に立っているか心許ない感があります。来日した人も、日本で一流の技術を身につけて帰っても母国では使う施設も機材も充分でない。例えば、閉鎖循環式の麻酔器とモニターを入れても、部品や薬品が欠乏すると役に立たない。X線装置に至っては昇圧コイルが焼き切れても修理技術がない。日本では電話一本で修理専門技師が飛んできます。だから看護婦を研修に招聘したら、その分だけ現地スタッフが減ることになる。

 

ODA資金の活用

 

佐貫 そうした教育をした看護婦さんは恐らくフィリピンに帰ったら看護婦さんにならないですね。

 

古川 役人になります。それと看護学校の先生。

 

佐貫 すごい人は大臣です。それから実業界の社長や重役の秘書になる。英語ができて日本語ができてフィリピン語ができて、しかも一緒に出かけていくときにちょっと血圧が高くなっているからと検査をしたり、血液検査をやって何かわかる。

 

古川 亡くなった榊原什教授が東南アジアでも心臓の血管手術ができるようにと、基金を募って日本に呼んで訓練し、実働可能な医療チームを編成して帰しました。1例か2例の手術はできた。その後、そのチームはバラバラに引き裂かれてしまいました。なぜか。「そんな優秀なスタッフなら是非1人でもよいからくれ」という要求が相次いだのです。チームがあってこそ機能するのに、看護婦が次々と引き抜かれ、医師も1人2人と取られ、麻酔の専門技師もどこかに招かれ、どこの病院も優秀な人材を欲しがるからチームは空中分解、心臓手術なんて絶対できない元の状態に戻りました。

それからもう一つの問題は、日本の国公立病院には外国籍の受け入れ枠がない。外務省がODAでやると言っても厚生省が枠を持っていない。そういう環境に連れてこられて冷遇されれば、誰しもアメリカに行きます。残念ながら日本には来ません。

 

佐貫 日本の資金でそういう人材を養成する。生活も部屋は完全1人で10畳と8畳とダイニングキッチン、冷暖房完備。そういう形でODA資金でフィリピンから人を招く。

 

日本の税制は文化と緑をつぶす

 

菊竹 生涯で税金と自分の支出と収入の関係を私に聞いた人がいるんです。国の政策として、住宅政策には持ち家政策と賃貸政策と2つある。この人は、土地を求め住宅ローンを払い続けていくのと、自分の費用で共同住宅に賃貸で入って、あるところで移っていく、そのどっちのルートを選択したらいいのか。それは3年ぐらい前に、国の住宅政策が賃貸から持ち家へと大きく変わった。持ち家政策は、環境の問題からいうと、非常に細分化された土地、住宅ということになって文化破壊になっていく。だから、うっかり持ち家を選択していいとか、賃貸がいいとかって、あんまり簡単に喜べない。その原因は、少なくとも社会的にある程度の地位にあった方が、土地も300坪とか400坪ぐらいお持ちになっていて、1軒の木造の、きちんとしたお家をおつくりになった。ところがその方が亡くなって、いわゆる相続となる。

我々は、この建物は大変立派な建物なので、何とかして保存してもらいたいと思った。

 

 

 

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