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意外にも5歳刻みの各世代ごとに1カップルを移住してくれたら人口増が起こる。具体的にカップルが来るかと言われるといささか困りますが、これしか決定打はないのは確かです。しかしこの案を採用すれば確実に人口が維持され、さらには微増することが分かるのですから、それを目標に具体策を考えるのが行政の仕事です。

とにかく行政や社会科学系学者で最小限の数量モデルを使うようになれば、未来の議論が透明になり、反論は自由自在、反論の反論も意のままです。知的蓄積が増す社会ではそういう能力が、官僚・企業はもちろん大学には必須になるべきと思います。現実には目覚めた人があまりいないのは誠に困ったことです。政策研究大学院大学では、優秀な若手の官僚が集まって、合理性の高い政策立案の手法を模索しています。努力が実れば理性のある人々に支持される政策が出るようになるでしょう。

 

●ディスカッション

 

1入院患者に16人のスタッフ

 

菊竹 中身の詰まっている話で、また改めてお話を伺う機会をつくらせていただきたいと思います。

 

佐貫 日本は1病床当たり平均値で65m2ですね。イギリスが85m2。その次、140m2というのはどこでしたか。

 

古川 イギリスの教育病院です。医者を養成する資格のある病院です。ほとんど大学病院です。

 

佐貫 日本はどの程度の面積に持っていけばいいのでしょう。

 

古川 大病院については100m2が目標です。幸いなことに、国立がんセンターは100m2を達成したのです。だけど問題は設計に長期計画がなかったために、患者を含めた来客が道に迷うのです。

 

佐貫 1病床当たり100m2にしますと、看護婦さんはどのぐらい入ってきますか。

 

古川 病床当たりの数は一定です。

 

佐貫 その場合、東京の大学病院で英語がしゃべれる看護婦さんの比率はどのぐらいと考えたらいいのでしょうか。

 

古川 平均すると1%以下でしょう。

 

佐貫 フィリピンのお嬢さんでカソリックの熱烈な信者を、ODA資金で4年間日本の高等医療技術、高等看護大学へ留学させる。医療技術は先端医療機器の設計、開発等のメンテナンスを教育する。他方、そういうものを機械的に使いこなせるような看護婦さんも養成する。医者よりも知っているぐらいのメンテナンスと医療ができる。そして、3年間お礼奉公していただき帰っていただく。3年間、月給を払います。ボーナスは帰ったときに、振り込めばいい。例えば、台湾の李登輝さんに聞いたとき、「2年間だけ台湾は受けている」と言ったのです。1昨年の11月、村野先生がきましたら、「いや、3年間に延ばしたんだ」と李登輝さんは言っているというんです。私は、ODAの発電所をつくるのもいいが、むしろ日本に人材を連れてきて、東京ではなく、地方の中核都市でそれをやる。そしてその人材を東京に配置し、外国の人にアフターケアする看護婦さんの仕事をお願いしたらどうか。

 

古川 まず実現不可能です。なぜかというと、日本の医療で大きな問題点は、医療スタッフがアメリカなどに比べて、法外に少ないんです。『ジュラシック・パーク』で一躍有名になったマイケル・クライトンは、マサチューセッツ総合病院でインターンをやった医者の卵です。医者になりそこねて、作家になってしまった。最初のデビュー作は、当時、堕胎がアメリカでは厳罰の対象だったのですが、堕胎を善意でやった医師とその周辺にいた医療スタッフの運命を書いたものです。これが全米推理作家新人賞を取って、著作界に躍り出たのです。彼の第2作は『ファイブ・ペーシェント』で「5人のカルテ」という邦訳が出ていますが、これはマサチューセッツ総合病院がどういう仕組みで動いているかの実態を、5人の患者の辿った経過を通して見た作品です。

私がびっくりしたのは、病院のスタッフ数です。事務職まで含めると1人の入院患者に16人のスタッフがいる勘定です。これはアメリカでも最高の数値で、日本では望むべくもない贅沢です。日本では誰も指摘したがらないのですが、入院患者1人あたりの床面積だけでなく、スタッフの数に至っては一般病院ではせいぜい3人でしょう。

 

 

 

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