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生物学に深い理解を持たれた2代の天皇陛下を記念して、皇居北の丸の武道館の代わりに近代科学博物館を作る。ロンドン自然科学館はビクトリア女王が夫君のアルバート公の記念に作られたものです。この博物館は内容の高さから、修学旅行や東京見物の必見のサイトにする。工夫をすればディズニーランドやユニバーサル・スタジオに負けません。ミュンヘンのドイツ科学博物館やシカゴ自然科学歴史博物館、ワシントンDCのスミソニアン宇宙科学博物館などに倣って、一般国民の教養公報の中枢に位置づけると、国際的な都市としての格付けに合格します。これに並んで人文系の巨大な博物館も、ぜひ東京に作るべきです。暇な関西人が文化の香り高い国立研究所を誘致しようと熱心ですが、すでに民族文化博物館と国際日本文化研究センターがあります。民博は故佐藤栄作元首相への直訴で出来ました。日文研も中曾根総理の時代に藤波官房長官が動いて出来たものです。どちらも立派な研究者を育て、国際的にも評価されています。しかし日本の未来を担う自然科学系の国立博物館や研究センターは、理解ある人々が関係官庁にいくら申請書を出しても、書類の山の下で何年も放置されている。国立研究所を作るには、首相の直接裁可を得ないことにはダメです。

 

長寿社会は富と情報の恵み

 

少子亡国論に私見を申したいと思います。論点はかなり自己中心的な労働力不足に集約されます。しかし子供が多い場所では優秀な労働力はない。それどころか世界中で人口は収縮しているのです。途上国でさえ出生数は減っているのです。

私の生まれた前後、日本が近代国家の一員としての威信をかけて正確な国勢調査をやりました。正確な生命表も初めて作られました。大正の終わりから昭和5年にかけての大事業です。国勢調査の委員には、記念として14金の縁でスケルトンの珍しいコンパスを配っています。その頃の子供は、小学校へ入るまでに5人に1人は死んでいました。一流の企業か役所に40歳まで勤めれば部長は当然で、50歳を越えて矍鑠としていれば重役です。それが今では世界一の長寿国になったのと引き替えに、世代内競争は生涯続く災厄に見舞われた。一番の友は終生の競争相手というのでは、お受験の頃から精神もおかしくなります。

最初に、長寿社会は富と情報の恵みであると申すのを忘れていました。先進国では医療は普及化時代を過ぎて、積極的な利益は期待できない状態に達しました。一例として東大医学部卒業生の死亡統計から、生命表を描いてみます。日本では24歳から医師資格を持ちます。ですからこの生命表は24歳からしかありません。それを1995年の国勢調査に基づいた第18回生命表と比較すると、日本人全体と医師とで、何ら差がありません。つまり医学・医療の進歩によって長寿になったというのは嘘です。

少子人口減少の問題で、評論家の言っていることは皆同じで、反論するにも足りない。少子亡国というに至ってはまったく暴論です。真面目な本もあり、真面目な研究者もたくさんいますが、知恵を集めても分からないのは、何故人口が減るまでに子供を生まなくなったのかの理由です。

子供が生まれないのは、全世界的な現象です。スウェーデンでは90年の奇跡と言われる出産率増加があったのです。その理由ははっきりわかっている。それまでのいろいろの出産奨励策がエスカレートして、有給育児休暇を2年から3年に延長しました。それが効いて出産が増えた。とどの詰まりは国民の方が賢くて、そんな無理な政策には限界があることを承知の前倒し出産で、補助の多い時に産んでおこうということです。女性が生涯に生む子供の数は増えなかった。

国際的に、15歳から65歳までの人口を生産人口、65歳以上を高齢人口と定義しています。共通の基準として使われています。ところで生産人口数で高齢人口を割りますと、80年代で7.8:1です。これに基づいて当時の社会学者は、7.8人が働いて1人の高齢者を養うと説明しました。2050年を推定すると3.1:1ですから、2〜3人で1人の老人を養う。さあ大変だと騒ぎ立てました。しかしその警告は生産人口が老人を養うためだけに働いているという前提がなければ成り立たない。働いている人々は子供を養い、自分たちの生活も全て賄う。

 

 

 

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