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日本の医療施設の欠陥

 

悪い点の第1は、病院の面積が狭いことです。今から20年前、大学付属病院、国公立病院、私立の有名病院と、日本でおよそ一流といわれる病院で、診察室、手術室、薬局から待合室、事務部門を一切含めて1床あたり平均65m2でした。当時、イギリスの普通の病院で85m2、教育病院は140m2、スウェーデン、デンマークの大学病院は大体200m2というのが常識でした。日本は圧倒的に狭いのです。それが未だに改善されていません。建物の外観や内装に若手の建築家が腕を競うのはいいのですが、面積は依然として欧米に劣るのが実情です。その原因は医学系の留学者のほとんどが、あまりに生まじめ過ぎて医療技術を習得する以外、文化や教養に眼を向けなかったためです。この憂うべき偏狭性は明治から平成まで変わらない。しかも途上国援助にも日本だけのスタンダードと気付かず、狭い病院建築を平然と提供して顰蹙を買う始末です。

第2は、日本人の長寿化にもかかわらず介護専門施設が不足している点です。日本人の死亡の80%は病院ですが、英独は40〜50%にとどまっています。これでは病院が混雑する上に「ぽっと出症候群」発生の素地になります。看護婦不足というのも奇妙で、人口あたりの看護婦数は先進国と差がありません。要は入院、外来ともに受診者が多過ぎて手が回らないのが真相で、統計上は先進国平均の2倍という変な数字が出ています。日本人が不健康で病人が多いのではありません。病院は医療技術で治せる急性期の患者のためのものです。開業医はかかりつけ医として、適切な助言や指導にあたれば簡単な病気は在宅で十分治ります。生活習慣病などと呼び名が変わった慢性疾患も、日常はかかりつけ医の指導を守れば良いのです。ヨーロッパの国々は1900年代に入って病床数を減らしています。これは適切な医療資源の配分の立場から必須なのです。

 

外国人研究者の生活

 

外国人が東京に住むための条件とはなにか。それは簡単な話です。日本が尊敬され、東京に魅力があれば放っておいてもみんなが集まって来ます。私は仕事上、各地の先端科学技術大学院大学を訪ねますが、たいていは田舎としか言えない容易にアクセスできない場所にあります。北陸先端科学技術大学院大学は小松空港から延々と車で走らないと着かない。奈良先端科学技術大学院大学も、最寄りの鉄道駅がない。近鉄の学園前の駅から1時間に1本だけバスが出る。他の先端科学技術大学院大学も同じような立地ですが、訪ねてみると外国人研究者がいついています。東大にしても20数年前はあまり外国人は見かけませんでした。本郷キャンパスに起こった変化の最初は、関西の有名な進学校出身者が増えて関西弁が市民権を得たことですが、その頃には外国人留学生の数も増え始めました。外国人大学院生は一生懸命教えても、やがて帰国していなくなる。日本が戦争に負けたころ、アメリカは親切に貧乏な日本人留学生の世話をしてくれた。今度はお返しするのが日本の番だと思ってみても、空しくなるくらい外人ばかりです。私も最後に退官する頃にはいささか煩悶して、どうすべきか迷いを感じたほどです。

ところが地方の研究機関で、交通不便、娯楽は何もないところで外国人は嬉々として研究生活を送っている。最新の研究設備があって才能ある指導者がいさえすれば、彼らは満足なのです。日本人のように繁華街がなくても寂しがらないし、パチンコ屋で時間をつぶす暇などない。尊敬する先生が決め手です。この現状から日本の生き残り策を考えると、何が何でも尊敬される日本を構築することと、首都としての東京の位置づけもそれに倣えばよい。

 

物真似は創造の第一歩

 

日本はいろいろの局面で危機的状況だと言われますが、どこの国の誰が助けてくれるか。そんな善意の国があるはずがない。もっとも厳しい状態を仮定して戦争のトラブルに巻き込まれた場合、どの国が戦争の相手国を非難し、日本を支援してくれるか。やはり尊敬されていなければ知らぬ顔をされます。たいていの国は、日本が今までさんざん金を稼いだ報いに、時にはひどい目に遭うがよいと腹のなかでは思うに違いない。そうならないためには尊敬される日本創造以外に道はない。

 

 

 

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