牧野 なかなか専門家でも見抜けないところがありますよね。ダッコちゃんやおばQの人形がヒットしたときも、専門家は絶対当たらないと言っていたそうです。おもちゃというのは極彩色でなければ当たらない。赤、青、黄色が使ってないと絶対売れないんだというのが業界の常識があった。真っ黒なだっこちゃんが当たり、真っ白なおばQがあたったのは、業界の常識が覆されたのです。最近では、先ほどからお話に出ているサンリオさんですが、ここはスヌーピーでヒットしている会社なのに、やなせたかしさんのあんパンマンを彼らは買わなかった。やなせさんに聞いた話ですが、「先生、あんパンが空を飛ぶのはちょっと…」という感じだったそうです、スヌーピーの会社ですよ。素人ならわかるんですけれども、スヌーピーで大ヒットして成長した会社が、やなせさんのアンパンマンを評価できなかった。キンダーブックに移り、NTVでアニメ放映された時点でヒットしていくわけです。
つまり、ヒットするかどうかというのは専門家でも読むのは難しい。でも、私は日本のマンガが成長していった過程、―このフォーラムのなかでもリテラシー、読み取り能力ということがたびたび議論されるんですが、この国には同じ言語を解釈し、非常に教育程度も高く、分厚い層の読者がいて、その人たちが作家を磨いてきたのではないかという意見をもっているんです。そのなかで、日本のマンガが多様化し、それから大人にも読まれるようなものができてゆき、たくさんのヒット作を生み出してゆくのではないか。今日のお話でわかったことは、香山さんのようなプロデューサーがあと10人ぐらいいたら、もっと爆発的に伸びるのではないかというふうに感じるんですが、このようなプロデューサーを意図的に育てることは可能だと思われますか。
香山 ある程度までは可能だと思いますよ。リクルートで、もともと短い期間でどうやってエンターテイメントを事業化するかと考えたときに、「エンターテイメントは不動産だ」と位置付けたんです。これには二つ理由があって、一つはこの東京財団のある日比谷セントラルビルの建物といいますか土地はここにしかないですよね。