日本財団 図書館


つまり、手塚さんは、彼のマンガが成立する過程のなかで、ディズニー映画を(弁当もちで映画館に通い)何十回もみたというエピソードを作者ご自身が語っているわけです。そういった事実が、法廷の場にいってしまったら、全部マイナス要素になってしまう可能性もあるわけです。

逆に、現在の若者たち、コンピューター世代の人たちは、もうすでに「著作権」自体、ほとんど存在理由をなくすのではないか―というような発言をする人までいます。ところが、一方で、これだけのビッグビジネスになって億というお金が動いている状況で、いま柔軟さを失わない「権利」が想定できましょうか。例えば「ピカチュウの場合はこの範囲」でというように、一つ一つの契約で成立していくものなのか?もっとグローバルな、世界に共通するラインが引けるのでしょうか?

 

香山 それはたぶん社会的なある種の社会常識に近いと思います。これだったらいいじゃないかという共同認識。それが習熟度になっていくんだと思います。これは自分のものに似ているじゃないかという主張があることは全然かまわないと思います。それをどこまで認めるかです。訴えるというのをやめさせるか、それとも、それなりの経済的な対価を払ってもらうか。経済的な対価で済むものだったら、詳細は知らないんですが、フランスなどではそれによって得られた収益はそのあと何年間か、仮にその人が会社を辞めても分配を受ける権利があるというので、保険とか年金とかと同じようにストレージして分配をしていくような仕組みがあるらしいです。

それと同じように、経済的なところで何かがきちんとできて、それの判断基準が、例えば物を盗んではいけませんとか、拾ったものは届けましょうじゃないですけれども、そういう当たり前に多くの国民が思えるようななかで進んでいかないと、法律的なところだけでやっていくと、結局、運用のところがもっとがちがちになってしまいますから難しいと思います。

ですから、急な立法化というのはどうかなという気がします。たぶん、立法というか、法律をおつくりになられる方たちというのは、たぶん、エンターテイメントですとかそういう文化的な分野に一番縁のない方たちが多いじゃないですか。土木、道路とか橋とか農業とかには強そうだけれども。そういう意味ではゆっくりとやられたほうがいいんじゃないかなという気がしますけれどもね。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION