牧野 では、―漫画文明論で結構です。
日下 先ほど佐竹さんが平安時代にさかのぼって難しい話をなさいましたが、つまり高知県の人が描いてる漫画はただおもしろいだけじゃない。平安時代にさかのぼる文化教養、根本精神から発しているんだ。その点が他のところとは違うんだ。こういうお話だったと思います。
たしかにそういうことがあると思います。そういう千年も培われてきた根本精神は、自分ではなかなか気付かない。だけどもそれが応用されて具体的に世の中にでてくるようになると、他の人は「これはちょっと違うぞ」といって深く感ずるところがある。佐竹さんの言いたかったのはそういうことですよね。実際に、例えば、日本のマンガとかテレビドラマがアジア一帯、ヨーロッパ一帯に出ているんです。先日シンガポール国立大学の教授の話を聞きましたが、週に25本、トータルで15時間日本のテレビドラマがシンガポールで放送されていて、視聴率が全部10%以上とっているそうです。
そのぐらいシンガポールやその他の国に日本文化が浸透している。そうすると知らず知らずに日本人のものの考え方とか、風俗、習慣がシンガポール中に伝染しちゃうわけです。シンガポールの若い人に「来世は何人に生まれかわりたいか」と聞くと、もう一度シンガポール人に生まれかわりたいというのが第1番なんですが、外国としては日本人が第1位で25%もいるんです。
具体的に日本人のどこに憧れるのかと聞いたら、テレビドラマやマンガに出てくる日本の若者は、自分のアパートに住んでいる。自分の部屋がある。何と豊かなことか。何と羨ましいことだ。あるいは女性でもみんな高校へ行っている。何とすばらしい生活であるか。ナンパというのもシンガポールに入ったそうです。どう書くんですかと聞いたら、漢字で「追女」と書く。女を追いかける。それでナンパというそうです。このように、日本の精神が知らず知らずに外国に出ていくわけです。
ちょっと視点を変えると、アメリカでは朝と夕方テレビでディズニーをやっている。ディズニーの短編アニメを子供向きにたくさんやっておりますが、作品に流れる根本精神は何かと考えると「力」なんです。