ミスターケースという作品のなかでよく批判する場面がでてきますが、対象はすべてシンガポール人のマナーです。政府ではないんです。それに加え、民族、宗教に対する差別も許されません。猥せつな表現も禁止。暴力も駄目、下品も駄目。そんなマンガ、もう面白くないでしょう。
日本のマンガからセックス、暴力、ちょっとした下品さがなくなったらつまらなくなると思います。アメリカでさえ、シンガポールほど厳しくないけれども、検閲はあるんです。検閲された作品は健康的、健全かもしれませんが、やはりおもしろさは日本のものが一番ですよ。
次に英語についてのご質問ですが、シンガポールの大学は英語で講義しなければならないんです。私の授業はすべて英語でやっています。生徒に見せるビデオもすべて英語です。そうすると、生徒からすごく悪い反応を受けるんです。英語に変えると日本マンガが面白くなくなる。何人もそういうコメントを書いてきました。決まりは決まりですから仕方ないのですが、やはり、日本語から直接中国語に訳した方がニュアンスがわかって面白いです。例えば人間蒸発、あるいは必殺技という表現は中国語でも意味がわかるし面白いのですが、英語になったら全然わからなくなって、そういうおもしろさはなくなるんですね。
牧野 そうすると、【漢字がポイント】と言っていいですね。漢字―ようするに象形文字のもっている強さというものがたびたび、この場で話題になってきました。ハイテクの国で象形文字がまだ使われているというのは、世界的にも珍しいわけです。中国文化の影響を受けた漢字分化圏というものがあるとしたら、そこでは共通の認識をもつことができるという有利さがあります。さらに文字を記号として読むだけではなくて、絵としても見る。その状況がいま、非常にわかりやすい形で提示されたわけですが―。
富沢 社会基盤研究所の富沢と申します。最近回転寿司についてのお話を聞いたことがあるのですが、日本の大衆文化の一つである回転寿司が、いまオランダやパリで大変な人気だそうです。