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それから、今知事もおっしゃったように絵物語がある。あるいは、鳥獣戯画というのがあるのです。カエルが相撲を取っている絵とか。そういうふうに、動物、その他をあたかも人間のように描く慣習が昔からあった。日本人は昔からどうもそういう人間らしい。

そこに私が感ずるのは、一筆書きで確信をつかむということです。つまり、省略の美しさなのです。しかも、確信をつかんでいるから、これはカエルが笑っているとか、投げられて悔しがっているとか、それが見事に伝わってくる。西洋に行きますと、そういうのはなくて、油絵は写真のかわりで、こってり、写真のように写実的に書き上げていたものなのです。日本には省略の美がある。それがマンガに生きているのかとさえ思います。

私は、一番いいマンガは一筆書きのようなマンガであって、最近のようにこってり描いたマンガは滅びると思います。余りにも描きすぎている。あれでは子供が真似できない。子供が離れたらおしまいになると思います。

それから3番目に、日本人は昔から、風景でも何でも写生する。これは我々にはあたり前なのですが、キリスト教の人にとっては珍しいことで、ヨーロッパの絵かきは自然風景の写生をしないのです。これは神への冒とくだと思ったらしいのです。

彼らはキリストの人生を褒め称える絵しか描けなかった。それ以外の山や川や花を描くのは偶像崇拝になると、聖書にあるわけです。神さまは嫉妬深くて、自分以外のものを褒め称えてはいけない、偶像崇拝はいけない。これは、アラブにもあります。ですから、そういう絵を描けないのです。

印象派の絵がなぜあんなにショックであったか、あるいは、印象派の絵かきが日本の絵を見てなぜあんなにショックを受けたのかというと、風景や花や木や獣を生き生きと描いていたからではないでしょうか。面白がって描いている。これを自分もやってみたいが、そのまま発表すると教会から叱られる。だから、印象派の絵かきというのは社会では下積みで表に出られない。こっそり描いていた絵は売れない。日本人には思いもつかない話なのです。

 

 

 

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