「もののけ姫」になったときは、あれだけすごい映像なのに、あそこにそういう場所があるのかと。あれ、私は実は非常にがっかりいたしました。
そうしますと、監督は、多分絵コンテの段階では、キャラクターがいてその背景、環境をちゃんとイメージしてあると思います。これを、背景とキャラクターに分けたとたんに、背景監督は背景だけで行きますから、みそもくそも全部背景なんですね。キャラクターアニメーションは背景なしにアニメーションだけだーっと行きますから、これも背景なしの動き一本で行くわけです。
で、さっきのちひろさんの絵でも、私たちは演出上背景という言葉は使わないことにしようねと。例えば、さっきのモヤですね、立体的に動いてました。しかし、あのレベルでは、まだもやは背景でございます。しかし、映像と言うからには、1つの映像の中に、コップがあったり、私がいたりとか、いろいろなものがございます。でも、それぞれに別々のストーリーがあるはずなんですね。メインキャラクターのストーリーはその映画のシナリオのストーリーであるでしょうけれども、そこに出てくるどんな小道具であれ、必ず小さなストーリーがあるはずでございます。
このことを実感しましたのは、実は宮沢賢治でございます。
宮沢賢治の童話は昔から好きで、彼の童話をずっと読んでて、最終的にはあの子たちと「銀河鉄道の夜」という映画をつくって終わりにしようと思ってるんですが、彼の童話で、お日さまが出てくる。それから、風が吹く。で、主人公が出てくる。主人公のストーリーはずっとありますが、お日さまのストーリーが必ず裏に隠れていて、お日さまが間で時々顔を出すんですね。それをつないでいきますと、メインキャラクターとは別に、おてんとうさまのストーリーが裏にちゃんと隠れているわけですね。風もちゃんと、最初に吹いて、途中で吹いて、間で吹いてと、ちょこっとしか出てきませんが、通してみますとちゃんとお話になっている。彼のシナリオというのは、当然メインストーリーがありますが、小さなストーリーが束のように織りなしてでき上がっている。それが彼の魅力かなと。