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まず、日本のマンガとアニメがこれだけ海外に出てポピュラーになったということで、例えば関連会社の方々、非常に金銭的な、利益を得られたとか、そうでないとかいうことがありますけれども、それとまったく別の次元でこういうことが言えると思います。

日本に限らず東洋に関する知識というのは、ヨーロッパではエリート層あるいは裕福な層の人間の手に握られてきていたわけです。例えば中世の大航海史時代の宣教師ですとか、そういった人々からはじまって、いわゆる能、歌舞伎を理解する、『源氏物語』を読む、あるいは最近では黒澤映画を、溝口作品、小津映画を愛好するという人たちです。現在では、こういう形の日本愛好というのは、一つ前の世代になります。日本愛好者、日本語学習者というのは、エリート層、裕福層に限られてきた。ところが、それを一変させたのが、日本のマンガとアニメです。

というのは、入り口はテレビで見た娯楽のアニメであるわけですけれども、もちろんこれだけ山のようにある作品、実際に現地語に訳されて紹介されているというのはごく一部です。そこで一体どういうことが起こるかといいますと、熱心なマンガ・アニメファンというのは、マンガ・アニメがわかりたいばかりに日本語を勉強します。実際、フランスの場合は大学で日本語を専攻する学生の数というのはマンガ・アニメブームとともに増えています。

私の見た範囲、あるいは周辺で聞く話では、10代後半から20代前半のマンガ・アニメファンの8割は日本語を学習しているだろう。もちろんレベルに差はあります。けれども、日本語学習者というのが増えました。そのなかから優秀な学生というのが出てきます。そうしますと、そういう若い人たちというのは、その後の日本学の権威となっていくでしょうし、あるいはエリートとして政治経済の分野にも進出していくでしょう。

いずれにしても、まとめて言いますと、日本のマンガ・アニメの果たした重要な役割の一つ、これは見逃されているような気がするのは、西洋における日本に関する知識を享受する層を高い位置から低い位置へ、大衆のレベルまで押し下げたという、これはとてつもない貢献だと思うわけです。

 

 

 

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