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私の考えだと、あれは本当のリアリズムのなかにオーバーアクションといいますかカリカチュアのただリアルに動くだけじゃないよという動きを創造したところに活路を見出したんだと思います。そのディズニーが大変偉大であったがために、アメリカでもハンナ・バーバラとかいろいろアンチディズニーのリミテッドアニメというのがいっぱい出てくるんです。そのリミテッドアニメというのは、そんなにゴチャゴチャ描かなくても、止めた絵でも映像表現として、むしろ動いたよりももっとたくさんのメッセージを伝えられるのではないかというのを、研究的にアプローチしている作品がたくさんあります。

そのひとつ、日本でも以前放送されたんですが、「プラハの郵便屋さん」というチェコスロバキアのアニメーションがあります。これは、リミテッドアニメーションの極致といっても良い優れた作品だと思います。この作品のテーマは、手紙を書くときに必ず宛名と差出人の住所を書きましょうねというメッセージだけなんです。プラハのある郵便局に宛て名のない手紙が一通くるんです。局長さん以下が困り果てる。この手紙を信書の秘密があるんだけれども、何か重要なことが書いてあるかもしれないからというので、開けてみると、戦争に行く青年が、恋人に最後にもう一度会いたいというようなことを書いている重要な手紙。その戦争に行く日は迫っている。これは大変だというので、郵便局員が手分けして心当たりを探し歩く。すると、ある1軒に行くと窓辺に少女が、その目が非常に象徴的なんですが、ポツンポツンと点で描いてあるだけなんです。これは日本の先ほど出たギンギラギンの宇宙空間を描いたような目ではないんです。ポツンポツンと目があって、その少女がもう20秒ぐらいとめの絵がある。カメラがジーッと寄っていく。それを郵便局員が、もしかして恋人というのはこの少女ではないかと目をこらしている。ふと少女の目からほんのちょっと涙が出るんです。その表現がすばらしいんですよ。それは、2、3枚しか絵を描いてないんです。にもかかわらず、ディズニーがフルアニメをやるよりももっと大きなメッセージが伝えられるんだというようなことを、この作品は教えてくれているんです。

 

 

 

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