土佐 もちろんそうです。
日下 心と心が近づけば手が近づく、手を出すという話ですけどね。それはそのとおりなんですが。
それともう一つ、僕は胴体の距離も関係があると思うんですけど。
土佐 もちろんあると思います。
日下 テレビを見ていると政治家がやたら胴体を引っ付けてヒソヒソ喋るんですね。男同士のくせに何やってんだとさえ思うんですけど、あれは幹事長とか大臣とかに後ろからすり寄って耳元でヒソヒソ言ってる様子なんですが、きっと何も大事なこと言ってないんじゃないでしょうか。ああいう言い方をしたほうが聞いてくれるだろうとか、あるいは周りの人が「ああ、あれは幹事長と仲がいいらしい」と思ってくれるだとか、そういった思惑が表れているのではないでしょうか。胴体の距離というのは今回の作品には入ってなかったわけですね。
土佐 入れたかったんですけど、おけの中に胴体を入れるわけにもいかないんで、とりあえず手だけと思いまして。それに、この作品では初対面の人と実験することが多いものですから、知らない人とはなかなか体までくっつかないと思いまして。(笑)
日下 そうすると、胴体の距離の職業差という問題がありますね。
土佐 この作品で身体距離はいわゆる心理学的見地から持ってきたものなんです。
日下 結局この作品の面白さは、我々の心理を物理学上の単位に変えてまた再現したことにあるのではないでしょうか。かなり正しく再現されているので面白いわけですね。だけど、もっと的確に再現しようと思えば、胴体間の距離だとかいろいろな要素が他にもたくさんありますよね。もしこの要素を全部実現してしまったらどうなるのでしょう。芝居を見てればいいようなものになりそうですが。