牧野 ありがとうございます。なぜあの巨大な目かという質問をしたのは、長い間、マンガが非難の的にされた理由の一つに少女マンガというジャンルがあるんです。少女マンガの中に描かれる主人公の目が非常に巨大であって、レコード目玉などと言われるくらいですが、これはデッサン上、絵画技法の理論から言いますととても耐えられないものであるわけです。つまり通常の絵画教育を受けた人の目から見たら、あのような巨大な目を顔の中にかき込むということはとても許せない。目が球体であることを考えると、美術解剖学の基本から言っても、それはもう頭骨からはみ出してしまうんですね。そういったものがノウノウとして描かれ、人気を得ているということに対してとても理解ができないという状況がありました。にもかかわらず、オバQにしてもミッキーマウスにしても、あらゆるマンガのキャラクターのほとんどはみな巨大な目を持っているんです。
私もたくさんそのようなマンガを描くわけですが、なぜそういったものを描き、それが受け入れられるのかという考察、研究というものは、実はまだ行われていません。マンガのできたものを文学的にどう読み解くとか、その物語の構成がどうであるかとかいうことに関しては非常に皆さんが関心をお持ちであって、作者よりも研究者のほうが進んでいるなんていうパターンがあったりもします。
先ほど出た人魚にも非常に不思議な感じを持ちます。ここで皆さんは、ほとんど違和感なく人魚を受入れていらっしゃると思うんですが、実はこの人魚なるものは漫画の中に一番多く出てくるものではないかと思うんです。国際的に見ても、ストーリーマンガだけではなく1コママンガの中でも一番多く登場するキャラクターは人魚ではないでしょうか。上半身が女性もしくは男性。ほとんどが女性でありますが、下半身が魚。このようなマンガの産物がほとんど無意識に使われていることが興味深く思えます。