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この人を引き付ける力は一体何だろうといつも僕は思うんです。あそこから声が出るわけでもないし、自然の鳥の声は聞こえるかもしれないけれども、大した強い情報はないんですね。何も強烈な情報はないんだけれども、人はそれを見ながら何か心が動かされるんですね。見に行った後僕も心の中に残っていて、あの石庭、あんなちっちゃい京都の暑いところに何であんなものがあって、見終わると何でさわやかな気持ちになるんだろうというふうに感じる。言わばこれが美的価値だろうと僕は思うんです。

今の土佐さんの作品の中で、石庭とまさに類似するのですが、無意識情報に焦点を定めているところに何と知性があるんだろうと思います。今、牧野さんのおっしゃった、これを見て大学に行くと9月からの授業が変わるだろうとおっしゃいましたが、僕はやはり見る力をもっと養わなければいけないなと思いました。要は暴き出す力です、見て見抜く力です。視覚情報もしくはコミュニケーションする能力を持たせるには、そこの部分をやはり教えなければいけないと強く感じました。

今、世の中がデジタル化になり、今の学生たちはコンピュータを使って作業をするんですけれども、やはりコンピュータを扱っていても、見る力とか描く力を持っていないと結局完成した作品は「甘く」なってしまうんですね。物が見れていない、表現できていないという感じを見る側が感じてしまうのです。時代を超えて持つ力って一体何だろうと思ったときに、僕はどうしてもその能力に左右されるのではないかという気がします。マンガの一コマの、本当に5分でかいたようなイラストレーションが、どんなに長時間をかけた、1時間も2時間もする映画よりも、たった1枚の小さなカットが見る側の心を打つのかと考えると、その作者の時代を超える力とか、見抜く力とか、あるいは見る側が更に想像を膨らまさせられる力、言わば見る側と受け手のキャッチボールにつながる見事なボールが投げられたときにだけしか成立しないコミュニケーションが生まれたのかなと思います。龍安寺の石庭が1000年近く、ただあそこにあるだけで美しいという気持ちを生み出しているパワーの秘密もそこにあると、土佐さんの作品を見ながらイメージが膨らんだ結果、そんなふうに感じました。

 

 

 

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