あれが非常に重要なんですね。人間が初めて描いた絵は、ほかの動物とは違う能力があって、例えば2歳から3歳ぐらいに絵をかき始める。そうすると人間の赤ちゃんだけが、丸の中に点をぽんぽんと打つ。そうすると、その点は一瞬にして目に変わるわけです。1本の棒が一瞬に鼻に変化するわけです。このイメージの創造力が、僕はビジュアル・コミュニケーションの基本だと思っているんです。言葉とは違う力を持っていて、つまりここがマンガの基本になっているように僕は思えてならないんです。『アンパンマン』なんかもそうですね。子供たちがあれを見てあんなにうれしそうな顔をするのは、人間、一番初めに描くのは丸ですからね。そこにまたアンパンのようなまん丸いところに点を打つんです。丸の連続なんですね。丸といっても楕円の丸でしょうけれども、その連続をやっていくと今のマンガになっていくんですね。人間の手は直線が引けないんです。逆に丸の構造というのは、まさに造形の一番最初のものであると。人類の始まりでも、ラスコーの壁画がよく引用されるんですけれども、完成され過ぎていて美し過ぎるんですけれども、でも壁にかく落書きはそれに類似していると思われます。それが現代までたどり着いている感じがして、そういうものを僕のデザインの中に取り入れたかったんです。
それから、僕はグラフィックデザイン学科の中にいますので、自分の表現する手段はどこにあるかといったら、今まで大先輩たちが小ばかにしていたようなところに、要は科学者たちがごみの中から大変な発見をするのと同じように、世の中に捨てられていたものを一個一個拾っていったらマンガに突き当たったんですね。こんなにすばらしいものをみんな何で見ないんだろうと思いました。芸大のある教授に「僕、マンガを研究したいんです」と言ったら、その先生に「秋山君、やめなよ、そんなものは。ばかばかしい、キャンバスに描きなさいよ。金にならんぞ」と言われたんですね。僕はそのときに絶望的な気持ちになって、学校をやめようかと思ったんですけれども。考えていたら、でもみんながそういうふうに言えば言うほど、へそ曲がりなので左のほうへ、左のほうへと行ったら、その行き着いたところはやっぱりマンガだったんですね。