ジェラルド・カーティス コロンビア大学教授 講演会
「米国新政権のアジア政策」
平成12年11月21日 於:全日空ホテル
−大統領選が接戦となった理由−
政治学では、時代の趨勢や社会の変動が政治にどう影響を与えているかを分析するものの、これだけでは政治の実情を説明することは無理であり、「政治家が動かすから政治が動く」との側面が重要である。すなわち、時代が求めても、必ずしもその方向に進むとは限らず、政治家の能力、リーダーシップによって決まる部分が大きく、第一線の政治家が戦略を立て、タイミングを判断して行動する能力に大きく依存する。
今回の大統領選の結果を解釈すれば、楽に当選できたはずのゴア候補が取った戦略の拙さが接戦となった理由であろう。これだけ米国の経済状況が良く、戦争も行っていない状況で、国民が一番関心を持っている問題は社会保障や教育問題であった。こうした中で、クリントン大統領と自分は異なるということを訴え過ぎたために、この8年間の実績を示しきれなかった。
一方で、ブッシュ候補はキャンペーンの中で、民主党も共和党も協力しコンセンサスを作ることが一番の仕事である、とのメッセージを打ち出し、たとえ政策通でないとしても人々を安心させるイメージが広がった。
−政治不信の背景と政党との関連−
これは日米共通の問題であろうが、政治不信、政治専門家に対する不信という面も見逃せない。米国ワシントンで長く働いたという政治経験自体がむしろ批判されるということがあり、ゴア候補の場合余りにワシントンのインサイダーであると見られた。逆に、ブッシュ候補の場合、州知事のみの政治家経験であることや目立った海外経験もないことが、「普通の人のことが分かる」とのプラスのイメージに繋がった。
同様のムードはレーガン大統領が選ばれた時にも存在したが、むしろ、趨勢的な傾向である。民主党の支持者の内容が、従来の熱烈なストロング・サポーターから、そうでないウィーク・サポーターに変わっており、これには民間の労働組合加入率が全労働人口の8〜9%に過ぎないといった現状が背景にある。
したがって、政治家の中にはテレビのトークショーに出たがる者も見受けられるが、これは「政党が支持するから大丈夫」との安心感が大きく低下していることが関係している。