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第3セッション 「国際機関の役割と安全保障体制」

 

最初の発表者のゲバリー教授(ジュネーブ国際問題研究所)は、コソヴォにおける紛争解決の多国間メカニズムについて、1)予防外交が行われたが時機を逸していた、2)コソヴォ紛争の特殊な状況の下では、国際社会の仲介による解決は困難であり、調停と和解の努力も時間的な制約から失敗に終わった、3)NATOの軍事介入はコソヴォ問題を解決したわけではない、4)コソヴォのように、民族の精神と自治・人権が複雑に絡んだ問題の解決には今後も長い時間を要する、とのプレゼンテーションを行った。

続いて、シュミット博士(ドイツ国際問題研究所首席研究員)は、バルカンの問題に関してかなり前からヨーロッパは軍事的な介入を検討していた、と述べた上で、「組織的な多国間主義(organized multilateralism)」の費用・便益という論題で、1)ヨーロッパは統一外交・安全保障政策の段階に達しているが、その決定プロセスは民主主義の観点から透明性の確保に問題がある、2)約30カ国の加盟国の意見調整をするのは難しく、EUの組織決定には限界がある、3)安全保障の枠組みの中で、NATOという枠組みで米国を関与させることは依然として必要である、と指摘した。

日本からのプレゼンテーターである植田隆子教授(国際基督教大学)は、コソヴォ紛争に関する日本の反応として、1)日本では、人道的介入という考え方が十分に理解されておらず、国連の決議を経ない形でのNATOによる軍事介入は少なからずショックを与えた、2)日本は、復興の援助の他に、ユーゴに拘束されていたドイツ人の解放の仲介など、ソフトな面で役割を果たした、3)日本とヨーロッパの間では、安全保障面で人的な交流や協力が存在している、と述べた。

最後に、国連の立場から、タクール博士(国連大学副学長)は、1)国連の手続きを経ないNATOの空爆は非合法的なものであり、NATO自身の憲章にも矛盾している、2)コソヴォ危機では、紛争の事後処理において国連の存在は不可欠であった。NATOが戦争を始め、国連が平和を構築した、3)介入の決定を国連外で行うことは、国際社会の秩序を乱すことになる、4)しかし、現在の国連の枠組みは数多くの問題があることは確かで、改善は必要である、との発表を行った。

続く質疑応答では、タクール博士のプレゼンテーションに関して、1)正当性という観点から、国連プロセスを重視すべきだという理念的な議論に終始せずに、政策的に考える必要がある、2)人権侵害が起きているときに、NATOの軍事的介入以外に国連に何ができたのか、3)組織を改革すると言っても、国連憲章の正式な改正は実現の可能性が低いのだから、現実に可能な対策を考えることは不可欠である、4)哲学的、学問的な問題としては、正しくても、実際の政策課題に対しての解決にはならないことがある。人道的な介入を求めている人々がいる状況で、我々に必要とされているのは、正当性もあり実用的な方策である、との批判が寄せられた。

 

 

 

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