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だから、その人たちの不安や疲れ、迷いや痛みをケアすることは、つい後まわしになる。

また、自己犠牲の精神が美的なものとされてきた日本の風土のなかでは、苦しみもまたボランティアの自発性に由来するものとして、それを自分の内に抱え込むことが求められてきた。

しかし、ボランティアの苦悩が個人的な問題のままでは、ボランティアはさらに、孤立・孤独化を深めていくことになる。これは人間にとって最も大きな苦悩である。自己犠牲によって苦悩を孤立・孤独化させるのではなく、それを共同でシェアしていく土壌こそ、現代に求められているのである。

 

3 ボランティアのケア

現代社会では困難を避ける風潮が目立つ。ボランティア活動を広げていく際にも「気軽に」「元気に」という視点が強調されるあまり、ボランティアの苦悩や傷つきやすさ(バルネラビリティ)が社会化される機会が少ない。

前述の中田さんもこう続けている。「マスメディアや有識者たちは、ボランティアに参加した若者たちの燃え尽き症候群について、したり顔で評論したり警告したが、こうしたボランティアの宿命的なストレスにまで思いが及んでいるものは、ついぞ見かけなかった」4)

「ケアする人のケア」の研究において、「ボランティアのケア」がひとつの柱になったのも、このような問題意識によるものである。

この研究では、ボランティアを受け入れる現場やボランティア活動の推進機関へのアンケート調査も行った。ボランティアが苦悩を抱え込んでしまわないためにコミュニケーションを大切にしているという回答が多かったが、それをもって「ケア」という視点が広く社会に共有されているとはいえない。ボランティアは「拒絶されぬ構図」のなかで「丸ごと一体化してしまい、重い荷を背負う」という「ボランティア・ホリック」に陥りやすいと指摘する声が寄せられた一方で、ボランティアのケアを、「コーディネーター」や「マネジメント」といったシステムに依存しがちな状況も見受けられた。

 

 

 

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