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身体に不自由なところがあっても、何とかムチを打っている方をみると、うれしくなって応援したくなる。そして、長く生きてきた方がため息をつかないですむ、長生きできたことを心から喜べる社会にしていかなくては、と思う。

お年寄りが吐き出す言葉の裏には、一人ひとりの人生、歴史がある。利用者の話に耳を傾け、キラッと光る言葉をキャッチする能力、ともすれば聞き流してしまいそうな言葉を聴く力、受けとめる力がヘルパーにあってほしいと思う。

1年半介護に入っている93歳のDさん(女性)。世間では呆け老人と呼ばれるかもしれないが、全部呆けているわけではない。むしろ、かなりわかっている。自分を大切にしてくれる人かどうか、自分をぞんざいにしないか、自分の味方かどうか…敏感にキャッチする。

眠っていたDさん、目を覚ましたとたん、「ああ、あんたか…」「いい色の服やな」「そのエプロン、布団生地にするとええな」など、にこやかに話してくれる。甘いお菓子や飲み物を口に運ぶと、美味しそうに食べる。満腹になると心もほぐれるのか、「あんたは、ほんとにええお人や」「ありがとうございます」と、ほめ言葉が出る。トンチンカンなことも言うが、よく人を観察しているな…と感心するときがある。「あんたのお腹に赤ちゃんいるんか?」とか、「あんた男前やな」と言われると、「スゴイ、私の特徴をよくつかんでる!」と、吹き出してしまう。手をギュッと握りしめる癖があり、爪が手のひらに食い込むので、タオル地の人形を持たせている。先日、手を無理に開いて人形を握らせたところ、痛かったのだろう、「もうー、いまの日本はどうなってるんだ!」と、怒った。Dさんの言うこと、もっともだ。ほんとうに、いまの日本、どうなってるんだ…だよね。あまりにうまいことを言うので、またまた吹き出してしまった。

「老いを考える会」の例会で、75歳のEさん(女性)が、呆けることの不安を訴えた。仲間の86歳のFさん(女性)が、親しかった人はもとより、家族の名前もわからなくなったことがショックなのだろう。「Fさんを見て、私もああなっちゃうのかなと思うと、怖くて不安で」と。

 

 

 

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