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そして、ケアという関わりは、身体的な介護や看護、世話という身体的な行為である場合もあれば、気遣いや気配り、配慮や関心といったこころの働きである場合もあるのです。

たとえば、患者さんが看護婦さんにさまざまな心理的・身体的なケアを受けている場合、通常では、患者さんが<ケアされる人>であり、看護婦さんが<ケアする人>であると思われがちです。しかし、患者さんが看護婦さんのことを気遣ったり、患者さん自身が自らの生を十分に生きたりすることで、ケアの仕事に携わる看護婦さんの生をケアすることもあります。さらに強調したいのは、患者さん自らが自分自身の存在や生に配慮し、自らをケアすることができるということです。

ケアは、その対象が自分であっても他人であっても可能であり、<ケアする人>自身もまた、誰か他の<ケアする人>によってケアされることもありうる関わりです。この意味で、ケアとは<自己へのケア>と<他者へのケア>という両方の意味をもっています。<自己へのケア>は往々にして忘れられがちですが、それが重要なのは、私自身が私自身の生を配慮し、身体に気遣い、人生を全体的にデザイン(設計)することにつながっていくからに他なりません。それゆえ、私は一連の<自己へのケア>もまた、ケアであると考えています。

以上から明らかなように、ケアとは、何らかの役割や特定の仕事のように、固定的な関わりとして考えるだけでは十分ではありません。また、ケアは、それが私たちの<あいだ>に成立するものである以上、<ケアする人をケアする人をケアする人をケアする…>というように、<ケアの連鎖>が無限に続く実践でもあるのです。端的に言えば、ケアにおいては、誰もが<ケアする人>であると同時に<ケアされる人>になりうるのです。

そして、ケアという<動的な関わり>は、私たちが互いに異なった存在として互いの<傍らにいる>ということによって基礎づけられています。

 

 

 

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