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「症例」

対象:自閉症・精神発達遅滞・抑うつ状態を有する33歳の男性(Kさん)である。

症状:Kさんの状態像は、幼少時のトラウマ、強迫的思考にもとづくパターン化された確認行為(質問)と答えの強要し、それが結果的に不安を惹起している。また、興奮状態から多弁や不眠の状態となり、人への攻撃が頻繁に出現し、周囲から孤立化を生じ、これが悪循環となって障害の重度化を進めていた。

対応:一方、ケアする人である職員の対応は、Kさんのパターン化した質問には、オーム返しや曖昧な回答を繰り返した。また、問題を表面化させないように本人主体の生活状態を容認し、人や物への攻撃に対しては、暴力の容認又は精神的・身体的圧力によるコントロールなど職員間の意思の統一に欠け、さらに症状が増悪すると、増薬、入院措置によって問題解決を図ろうとした。

問題の潜在化:これらの安易な対応は、結果的にKさんの抑圧された精神状態、精神的不安の増大、孤立化を進め暴力が増悪した。一方、職員は表面的に問題が生じない体制作りに奔走し、保護者からは、施設、職員に対する不信感の増大を招く結果となった。

 

人は、誰しも不安を持ち、悩み苦しみを抱えながら生きている。「不安」の根底には究極的に「死」というものが存在する。「死」とは生命的活動の終焉であり、自己の存在の消滅、杜会からの孤立を意味する。一方、「生きる」とは、一場面一場面、一刻一刻が常に新鮮な出来事の中で展開されるダイナミックな創造的活動であると言える。

人が毎日を生命感を持ってみずみずしく生きるとは何を意味しているのであろうか。そして、Kさんの行為の真の意味しているものは何なのか。Kさんに対する新たな取組みを紹介しながらケアのあり方を探っていきたい。

 

 

 

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